八木唯
IQ180の天才だが、他人の感情がよく理解できないせいでまわりとうまくいかない。他人を理解できるようになろうと、彼女は偶然にも魂天神社にお詣りに来たが、これをきっかけに、彼女は少しずつ変わり始めた。コーヒーとおやつが好きだが、絶望的なバカ舌である。
Profile
Skins
八木唯の初期衣装
八木唯と契約を結んだ時に入手できる着せ替え衣装
「クリスマスフェス」にて購入できる限定の着せ替え衣装
ハロウィンテーマの着せ替え衣装
「煌めく舞踏会」にて購入できるドレステーマの着せ替え衣装
「雀魂夏祭り2022・にゃん国無双」にて購入できる水着テーマの着せ替え衣
「イーハンパス・トラベラー」にて購入できる冒険テーマの着せ替え衣装
「サンリオキャラクターズ × 雀魂 コラボイベント」にて購入できる、私服テーマの着せ替え衣装
「驚風破竹」にて購入できる、武侠テーマの着せ替え衣装。
Emotes
Bond Requirements
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プレゼント・普通
...うん...
-
プレゼント・好み
...ほしい、ありがとう。
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絆レベルアップ5
先輩、手を繋いでもいい?
-
絆レベルアップ1
別にときめいたりしません
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絆レベルアップ2
...少しときめいたのかもしれない、もう一回してほしい
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絆レベルアップ3
先輩と一緒なら、私も変われるのかな
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絆レベルアップ4
先輩、あまりじーっと見ないでほしい...恥ずかしい...
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隐藏语音 - 新年
明けましておめでとう、先輩。一緒に、花火見に行こう
-
隐藏语音 - 情人节
先輩、チョコレートをどうぞ、手作り。先輩の好み合わせて作ってみたの、唐辛子の餡が入ってる、さぁ、食べてみて
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メイン1
...なに?
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メイン2
どうして他のみんなはあんなに表情が豊かなの?...理解できない
-
メイン3
わざと一発を見逃したのか...?他の二人がどんな顔をするか気になっただけ、深い意味はないよ
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メイン4
先輩、先輩、先輩、先輩...先輩って面白いね、言い方を変えただけでこんなに意味が変わるなんて
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メイン5
あの...先輩、ちょっと近すぎ...他の人が見たら勘違いするかもしれない...
-
メイン6
先輩、私を突っつくのって面白い?私も人を指で突っついてみたい
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メイン7
これ、あげる...新しく見つけた食べ物の組み合わせだよ、セロリマヨネーズポテチ...こんな真っ青になった先輩の顔、初めて、記念に写真撮っておこう
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メイン8
先輩、良かったら、麻雀・・・一緒に・・・しよ?
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ログイン・普通
こんにちは...
-
ログイン・絆LvMAX
...おかえりなさい、先輩。よかったら、一緒にマージャンしよ
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契約を結ぶ
あまり見ないで、新しい服、慣れない...
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SP-友人戦部屋に入場する時
うん、お邪魔します
-
SP-友人戦部屋で準備した時
準備完了
-
出会い
...八木唯よ、あなたは...?
-
北抜き
ペー
-
チー
チー
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ダブル立直
ダブルリーチ、すごく楽しみ...
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カン
カン
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ポン
あ、ポン...
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立直
リーチ、楽しみ...
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ロン
ロン、それ頂戴
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ツモ
ツモ、全部頂戴
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白
ハク
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北
ペー
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純全帯幺九
ジュンチャン
-
純正九蓮宝燈
チューレン九メン待ち
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大三元
ダイサンゲン
-
大四喜
大スーシー
-
地和
チーホー
-
ダブル立直
ダブリー
-
東
トン
-
ドラ
ドラ
-
ドラ10
ドラ10
-
ドラ11
ドラ11
-
ドラ12
ドラ12
-
ドラ13以上
ドラいっぱい
-
ドラ2
ドラ2
-
ドラ3
ドラ3
-
ドラ4
ドラ4
-
ドラ5
ドラ5
-
ドラ6
ドラ6
-
ドラ7
ドラ7
-
ドラ8
ドラ8
-
ドラ9
ドラ9
-
ダブル北
タブペー
-
ダブル東
ダブトン
-
ダブル南
ダブナン
-
ダブル西
タブシャー
-
断幺九
タンヤオ
-
対々和
トイトイ
-
二盃口
リャンペーコー
-
発
ハツ
-
国士無双十三面待ち
コクシ十三メン待ち
-
国士無双
コクシムソウ
-
海底摸月
ハイテイ
-
河底撈魚
ホウテイ
-
混老頭
ホンロートー
-
混全帯幺九
チャンタ
-
混一色
ホンイツ
-
九蓮宝燈
チューレンポートー
-
嶺上開花
リンシャン
-
立直
リーチ!
-
流し満貫
流しマンガン
-
緑一色
リューイーソー
-
南
ナン
-
平和
ピンフ
-
槍槓
チャンカン
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七対子
チートイ
-
清老頭
チンロートー
-
清一色
チンイツ
-
三暗刻
サンアンコー
-
三槓子
サンカンツ
-
三色同刻
三色ドーコー
-
三色同順
三色ドウジュン
-
四暗刻
スーアンコウ
-
四暗刻単騎
スーアンコウ、タンキ
-
四槓子
スーカンツ
-
天和
テンホー
-
西
シャー
-
小三元
ショーサンゲン
-
小四喜
小スーシー
-
一盃口
イーペーコー
-
一発
イッパツ
-
一気通貫
イッツー
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中
チュン
-
ツモ
ツモ
-
字一色
ツーイーソー
-
清算一位
こういう時は、笑うべきなのかな...?
-
清算一位・高い点数で勝利
イエイ!よかった
-
清算一位・ロンで勝利
イエイ…
-
倍満
バイマン
-
九種九牌
キュウシュキュウハイ
-
数え役満
数えヤクマン
-
満貫
マンガン
-
ノーテン
ノーテン
-
三倍満
サンバイマン
-
四風連打
スーフーレンダ
-
四槓散了
スーカン流れ
-
四家立直
スーチャ…リーチ
-
跳満
ハネマン
-
聴牌
テンパイ
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役満
ヤクマン
-
ダブル役満
ダブルヤクマン
-
トリプル役満
トリプルヤクマン
-
四倍役満
四倍ヤクマン
-
五倍役満
五倍ヤクマン
-
六倍役満
六倍ヤクマン
-
SP - ドラを捨てた時
うん、いらない
-
SP - 倍満/三倍満聴牌
大きい役の気配…
-
SP - 同じ牌を連続に捨てた時
運が悪かった
-
SP - 残り牌が10枚以下の時
そろそろおわる…
-
対局開始
先輩、行きましょう
-
SP - 役満聴牌
ふふふふ、楽しい~
-
帯幺九
帯幺九(タイヤオチュウ)
-
根
根(ルート)
-
将対
将対(ジャントイ)
-
金勾釣
金勾釣(キンコウテャオ)
-
嶺上放銃
嶺上放銃(リンシャンホウジュウ)
-
龍七対
龍七対(ロンチートイ)
-
清対
清対(チントイ)
-
清金勾釣
清金勾釣(チンキンコウテャオ)
-
清龍七対
清龍七対(チンロンチートイ)
-
清七対
清七対(チンチートイ)
-
清十八羅漢
清十八羅漢(チンジュウハチラカン)
-
清幺九
清幺九(チンヤオチュウ)
-
十八羅漢
十八羅漢(ジュウハチラカン)
Spot Voices
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Spot Voice 1
惊讶
-
Spot Voice 2
肯定1
-
Spot Voice 3
否定
-
Spot Voice 4
打招呼-早晨
-
Spot Voice 5
打招呼-白天
-
Spot Voice 6
打招呼-夜晚
-
Spot Voice 7
告别
-
Spot Voice 8
承接
-
Spot Voice 9
叹气
-
Spot Voice 10
高兴1
-
Spot Voice 11
生气
-
Spot Voice 12
递进
-
Spot Voice 13
转折
-
Spot Voice 14
疑惑1
-
Spot Voice 15
语气
-
Spot Voice 16
放弃
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Spot Voice 17
邀请
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Spot Voice 18
打招呼1
-
Spot Voice 19
害羞
-
Spot Voice 20
高兴2
-
Spot Voice 21
称呼1
-
Spot Voice 22
称呼2
-
Spot Voice 23
疑惑2
-
Spot Voice 24
肯定2
-
Spot Voice 25
思考
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Spot Voice 26
打招呼2
-
Spot Voice 27
称呼3
-
Spot Voice 28
高兴3
-
Spot Voice 29
高兴4
-
Spot Voice 30
高兴5
-
Spot Voice 31
称呼3
-
Spot Voice 32
索要
-
Spot Voice 33
高兴6
-
Spot Voice 34
感谢
-
Spot Voice 35
高兴7
-
Spot Voice 36
犹豫
-
Spot Voice 37
疑惑3
-
Spot Voice 38
准备
白衣のバリスタ
絆LV1で開放
――この、妙な生臭さは何なのだろう。 本日3杯目の試作コーヒーをテーブルに置きながら、白衣を着た少女はその原因を分析する。 理論は完璧なはずだった。いいコーヒーの条件は苦味・酸味・コクのバランスが取れていること。つまり、コーヒーが本来持つ苦味を、様々な食材をブレンドして補ってあげればいい。食材の種類が多ければ多いほど旨味も増すだろう。だから彼女は足し算を続けた。柚子の皮。乾燥トマト。梅干し。ヨーグルト。バルサミコ酢。ここまでの工程に問題はない。そのはずなのに……。 「足し算が甘かった……?」 彼女はスーパーのレジ袋へと手を伸ばす。中には、今回の実験のために購入しておいた予備の食材が大量に詰め込まれていた。その中のアンチョビソースを掴み取り、パッケージをしばらく眺める。 ……駄目だ。 なんとなく、これを入れてしまったら全てが崩壊してしまう気がする……。 「コーヒー作りは、宇宙探索みたいなものなんだよ」 研究室へ遊びに行くたびに、父はそう言って笑っていた。 豆と豆の組み合わせパターンは星の数ほどあるし、ミルの回し方、湯の注ぎ方、コーヒーカップの材質に至るまで、考えなければならないことは無限にある。なるほどたしかに、究極のコーヒーをつくる旅路は果てしない。 それこそ、暗黒の宇宙を探索するようなものだ。正確な地図すらどこにもない航路を、粗末な宇宙船で進んでいく。そこにロマンを感じるんだ、というのが父の口癖だった。 たぶん父は、究極のコーヒーになど辿りつけなくてもよかったのかもしれない。未知への挑戦と、失敗の連続。そういう険しい道のりそのものを、父は心から愛していたのだ。 ……とは言っても。 「……お父さん。難しすぎるよ」 思わずつぶやいてしまっていた。 もちろん、彼女にも友人と呼べそうな相手はいる。一緒に麻雀をしたり、科学談義に花を咲かせたことは何度かある。だけど、なぜかコーヒー作りが趣味であることは誰にも打ち明けられなかった。 その理由はよくわからない。心を許していない……わけではないと思う。 なんというか、照れ臭いのだ。 コーヒー作りは父や母と過ごした日々の記憶と深く結びつきすぎていて、その温かい世界に誰かを招くのはむずがゆさを感じてしまう。 だから、究極のコーヒーは一人で完成させなければならないのだ。 覚悟を固めた彼女は、4杯目の試作に入ることにした。ひとまず口直しとして、何もブレンドしていない状態のコーヒーを口に含んでみる。 「…………あれ?」 美味しい……。 これはいったいどういうことだろう。 あれだけたくさんの材料をブレンドしたこだわりのコーヒーより、こんな何の変哲もないコーヒーの方がよっぽど洗練されている気が……。 「まさか、何かが根本的に間違って……」 そう言いかけて、彼女はぶんぶんと首を振る。 そんなはずはない。足し算のやり方が間違っていただけだ。 物質を足せば足すほど美味しさの総量が増えていく――彼女が導き出した理論は、宇宙の法則と照らし合わせても間違いないはずだから。 どうにか疑問を押し殺し、彼女は再び実験を始める。 「今度こそ、大丈夫なはず……!」
一粒の素粒子
絆LV2で開放
テーブルの上に、一杯のコップが置かれているとする。 中に入っているのは、何の変哲もない水だ。透明で無味無臭。生物が生きていくのに欠かせない、この世界で最も重要な物質の一つ。 虫眼鏡で覗いてもわからないことだが、この物質の中には無数の水分子がひしめき合っている。化学式はH2O。水素原子が2つ、酸素原子が1つ結合した姿。中学生以上なら誰でも知っているこの分子が、コップ一杯の中に6秭個入っている。ちなみに「秭」というのは数字の桁を表す漢字で、6の後に0が24個続いた数値を指す。「垓」の次で、「穣」の一つ前。「億」や「兆」とは比べ物にならないほど大きい。数秒で飲み干せてしまう物質の中に、それだけ途方もない概念が存在しているのだ。 でも、そこで終わりじゃない。 水素原子や酸素原子の中には、さらに一回り小さな原子核があり、その中にはさらに陽子と中性子が収まっている。もちろん、まだまだ先もある。途方もないほど小さな粒の中には、さらに気が遠くなるほど小さな粒がいくつも含まれている。 それが「素粒子」だ。 この世界を構成する、最小の概念。 昼下がりの図書館で、彼女はそんなミクロの世界について調べていた。 とはいえ、素粒子は両親の研究分野の一つだった。幼い頃から両親の研究室が遊び場だった彼女は、大学に入る前にはもう素粒子にまつわる論文や学術書にあらかた目を通していた。両親は教えるのが上手だったから、疑問点は中学生の頃にはほとんど解消してしまっている。今読んでいる海外の物理学者の本は、内容がよくまとめられているのは確かだけど……それだけだ。新しい知見が得られそうな気配はない。 「ふう……」 分厚い本を閉じ、彼女は溜め息を吐く。 何かもっと、彼女の心を躍らせてくれるような発見はないのだろうか? 退屈な世界の見え方が根本から変わる、驚きと喜びに満ちた出会いはないのだろうか? それとも人類は、もう世界の秘密をすべて解き明かしてしまったのだろうか? ……だとしたら。 「……そんなの、楽しくない。」 誰にも聴こえないほど小さな声で呟いてから、彼女は窓の外を眺める。 違う学部の学生たちが、楽しそうに笑いながらどこかへと歩いていた。 退屈、という言葉とは無縁そうな彼らと自分は、いったい何が違うのだろう。知識量が足りないのだろうか? 科学以外の分野にも手を広げてみた方がいいのだろうか? ……いや、違う。 それで解決できそうな問題ではない気がする。 読み終わった本を元あった場所へ戻すため、彼女は席を立つ。特集コーナーを歩いていると、漫画のような可愛らしいイラストが表紙に描かれた絵本が目に留まった。 タイトルは「たのしい科学との出会い」。もちろん子供向け。おそらく、教育学部の学生向けに置かれているものなのだろう。 海外の最新論文を読むのが日課の彼女にとっては、さすがに初歩的すぎる代物だ。 それでも彼女は、気付いたときにはその絵本を手に取っていた。 「……出会い。」 そう。出会いなのだ。 水素原子が酸素原子と出会って水になるように、無数の素粒子たちが出会って原子ができるように、出会いこそが退屈な世界を変えてくれるのだ。もし自分にもそんな出会いがあれば、窓の外を歩いていた彼らのようになれるかもしれない。劇的な科学的ブレイクスルーを待つ必要なんてないのかもしれない。 そう考えると、少しだけ身体が軽くなった気がする。 自分はこれから、どんな人と、どんな風に出会うのだろう。 そんなことを考えながら、彼女は絵本の最初のページをめくってみた。
世界よりも大切なもの
絆LV3で開放
小学校に上がる前、両親とよくピクニックへ出かけた。 研究で忙しい両親はあまり遠出をしたがらなかったから、車で30分くらいの場所にある大きな公園が主な目的地だ。魚釣りやアスレチックなどの遊びよりも、アウトドア用の椅子を3つ並べてのんびりするのが八木家のルーティン。コーヒーを飲みながら本を読む両親にならって、幼い彼女はオレンジジュースを片手に、少し難しい科学の本に挑戦していた。 幼稚園のころから読書が好きだった。というか、本を読む以外の過ごし方をあまり知らなかった。同級生たちが砂場でお城やお山を作ったり、プラスチック製の野菜やお肉でおままごとをするのを遠巻きに眺めながら、彼女は幼稚園にあった絵本を1年間で読破してしまった。今ではもう、小学生向けの漢字の多い本にも手を広げている。 両親の温かいまなざしを左右から感じながら、彼女は科学の本を読み進めていった。 ホタルのおしりが光る理由。 ドライアイスが普通の氷とは別物だということ。 宇宙ができるきっかけになった大爆発について。 今まで知らなかった世界の真実を、まだ小さな頭に夢中で詰め込んでいく。 「何だか暗くなってきたな」と思っていたら、父親が困り顔で頭を撫でてきた。 「唯、もう6時だよ」 いつの間にか、空が赤く染まり始めていた。 時間が経っていることにも気付かずに夢中で本を読んでいた彼女を、両親はずっと待ってくれていたらしい。 「科学の本は楽しい?」 父が持つマグカップから、コーヒーの香ばしい匂いが漂ってくる。 母がくれた手作りのクッキーをかじりながら、彼女は何度も頷いた。 「このせかいのことを、たくさん知れるから」 「すごいな、唯は。もうそんなことを考え始めてるのか」 「うん。……だけど」 「どうした?」 「……あのね、おとうさん。」 それに続く言葉はなかなか出てこなかった。まだ幼い彼女には、その感情の正体がよくわからなかったのだ。両親と一緒に本を読むのはとても楽しいはずなのに、それだけで十分なはずなのに、なぜだか胸が締め付けられる。幼稚園や家にある本を全部読み終わったあとは、いつも落ち着かない気分になってしまうのだ。 「本をよんだあと、なんだかそわそわするの。このままでいいのかな、って」 「勉強熱心なのはいいことじゃないか。どうしてそわそわするの?」 「えっと……」 まだ拙い言葉で、唯は自分が抱えている不安を打ち明けた。 漢字の多い本で彼女が学んだ、自然や宇宙の不思議たち。その素晴らしさを、本当は、おままごとや砂遊びをしているみんなにも伝えてあげたいのだ。 でも、どうすればいいのかわからない。 どうすれば、みんなが話を聞いてくれるのか。 どうすれば、自分のことを知ってもらえるのか。 どうすれば、みんなと仲良くなれるのか。 こんなにたくさん本を読んでいるはずなのに、みんなが普通にできていることが彼女にはわからない。悔しくて悔しくて、しょっぱい味のする水が目から溢れてきた。このしょっぱい水は色んな種類の小さな粒でできていて、その小さな粒の中にはもっともっと小さな粒がたくさん詰め込まれている――そんな面白い世界があるんだって、本当はみんなに伝えてあげたいのに。 「大丈夫だ、唯。いつか唯にも、世界より大切な人ができるよ」 父の目線が、彼女と同じ高さになった。 「そのときが来たら、ゆっくり伝えてあげるといい。宇宙の成り立ちとか、目に見えないほど小さな世界のことを」 父は優しく笑って、大きな手で頭を撫でてくれた。 その温かい感触を、今でもまだ覚えている。
君と過ごす日々
絆LV4で開放
Possible Endings
Scenario Script
Spots 1, Scenes 256, Choices 7, Endings 2
だから、本当に見たんだって!
ささ昨晩、あの部屋の窓の中で、緑の炎がゆらゆらと動いていたのを!
あれは間違いなく霊魂……いやエクトプラズム……?
落ち着くんだ。あの建物は理工学部の実験棟だろう。
そこで緑の炎ときたら、恐らくは銅の……
炎色反応。
声がした方向を見ると、そこには八木さんが立っていた。
そういえば、麻雀以外で話すのは初めてな気がする。 八木さんもちょっと緊張しているように見えた。
そ、そう! 炎色反応ね!
知ってる知ってる! かの有名な博士が提唱した原理で……。
炎色反応なんて、中学校で習う内容だぞ。
ぐぬっ……
熱エネルギーで解離した試料は、原子に変換される。
その過程で発生する電磁波には物質ごとに特定の周波数があって……
そのエネルギーが人間の可視光線の範囲に入ったときに、 炎の色が変わって見える……
ふふ、流石だなゆいちんは。
こ……これも中学校で習うのか?
……いや、細かい原理まではさすがに……。
どうやら波長が合うらしく、 八木さんと未来さんはちょっと専門的過ぎる科学談義を始めてしまった。
聞いたこともない用語が次々と飛び交い、付け入る隙がまるでない。
このままだと、私と四宮くんだけ蚊帳の外だ……。
ちょうど四人揃ったし、どうする? これから麻雀でも……
ふむ、楽しそうだね。
……いや。そういえば、このあと会食があったんだ。 残念だけど、僕はここで失礼するよ。
おっと、僕も今からバイトだ……。ちくしょう……!
そっか、残念。二人ともまた今度ね。
……さて。
八木さんと自分だけ取り残されてしまった。
……
……
少し気まずい沈黙の中、八木さんは何も言わずにこちらを見ていた。
相変わらずの無表情。なにを考えているのかいまいち読めない。
な、何か、話題を振らないと……。
……よく、わからない。
え、そうなの……?
子供の頃から、科学の本はよく読んでた。両親が科学者だったから。
でも、自分が科学者になりたいわけじゃないから…… 本当に好きな人とは少し違うはず。
でも、知識量とか物凄いと思うし……
私には、八木さんは科学が好きそうに見えるよ。
……そう?
先輩が言うなら、そうなのかも。
科学者以外なら、八木さんは将来何になりたいの?
え……?
……なんだろう。
………
………私、いったい何になりたいの……?
……そ、そんな真剣に考えなくても!
適当に話題を振ったつもりだったのに。
なんか面白いな、この子。不器用というか、真面目というか……。 どことなく放っておけない感じがする。
ここは一旦話題を変えよう。
じゃあさ、もし何か見つかったら私にこっそり教えてよ。
科学方面以外なら、私でも力になれるかもしれないからさ。
……うん。ありがとう、先輩。
八木さんは何も言わずにこちらを見つめている。
これは……否定? 肯定? どっちなんだろう。
……図星。
え?
先輩のこと、観察してると、楽しいから。
嫌なら、もうやめる。ごめんなさい。
ほら私って、パラメーターがこの街の住民のちょうど平均値って感じしない?
……そういう反応が、すごく面白い。
先輩は、もっと、自分の面白さを、自覚した方がいいと思う。
もしかしてからかってる?
本心、だよ。
そっか、本心か……
八木さんの方こそ、とても面白い女の子だと思った。
先輩って、帰る方向、同じ?
家の近くのコンビニで、見かけたことあるから……そこからの推測。
お、そうなのかも!
じゃあ、途中まで一緒に帰ろっか。
うん。……あ
そういえば、冷蔵庫に何も入ってない……。
八木さんって、自炊とかするんだ。
うん。まだ修行中、だけど。
じゃあさ、一緒にスーパー寄ってみる? 私も久しぶりに自炊したい気分だし。
家の近くにある、二階建ての大型スーパーに立ち寄る。
ここは久しぶりだけど、品揃えが豊富で、欲しい食材は大体なんでも手に入る。
そういえば、牛乳を切らしていた気がする。ついでに買っておこうか。
八木さん、今晩の献立は……
あ。ちょっと待って、推理してみるね!
八木さんが買い物かごに入れていく食材をチェックする。
白菜、レタス、サニーレタス、サンチュ。
キャベツ、紫キャベツ、芽キャベツ……。
や、八木さん?
そんな、葉っぱ系の野菜ばっか集めて何を……。
先輩、当ててみて。
残念、ハズレ。
そんなに難しかった……?
え、うん。だいぶ難しいと思うよ……?
……ちなみに正解は?
肉じゃが。
え?
じ、じゃがいもをまず買わないと……
肉じゃがに、お肉とじゃがいもを使うのは、固定観念。
新しい食材で実験してこそ、美食への道は開かれる……はず。
そ、それもう肉じゃがではなくなってる気が……。
どうも独創性をはき違えている気がする。
というか、八木さんってもしかして、料理がものすごく苦手なんじゃ……?
……やっぱり、先輩は面白い。
私、ペットなんて飼ったことないよ。
ご、ごめん。カゴの中が緑ばっかりだったからつい……。
正解は、肉じゃが。
え?
あと先輩、うさぎにこんなにたくさん野菜をあげるのは、危険。
水分補給目的で、ほんの少し与えるくらいにしないと。 上限は、体重1キロあたり3グラム。
ちょ、ちょっと待って! 恐ろしい回答をさらっと流さないで……!
うさぎにとっては、新鮮な野菜よりも乾燥した牧草の方が栄養価が高い。
不思議だと思わない、先輩?
いや、クイズどころじゃないよ……!
こんな材料で肉じゃがなんて作れるの?
先輩、固定観念をひっくり返そう。
最低限守るべき固定観念もあると思うよ!?
えーーーん!!
不意に、小さな子供の泣き声が響き渡る。
辺りを見回すと、お魚コーナーの前で 4~5歳くらいの女の子が不安そうに立ち尽くしていた。
迷子だろうか?
平日の午後ということもあって、店内の客はまばらだ。店員さんも近くにはいない。
(これは……私たちが声をかけるべきだよね……?)
……行かないと。
私よりも先に、八木さんが女の子の方へ駆け出していた。
目線が同じ高さになるようにしゃがみ込み、八木さんが優しい口調で言う。
どうしたの?
お父さんかお母さんは? はぐれちゃった……?
……ううう。
おかあさん……どこ……?
大丈夫。
私たちが一緒に探してあげる。
このスーパーには迷子センターもないし……
いいよね、先輩?
もちろん。一緒に探そう。
ありがと……。
ねえ、どこでお母さんとはぐれちゃったか、わかる?
しゃぼん玉をね、さがしてたらね……
おかあさんがいなくなっちゃった……。
おもちゃがあるのは……二階かな?
さて、ここからどうするべきか……。
エスカレーターを使い、三人で二階へ向かう。
女の子がお母さんとはぐれたのはこの辺りで間違いないはずだけど……
おもちゃが並んでいる棚の周辺を探してみても、それらしい人影はない。
もうどこかに移動してしまったんだろうか?
ひぐっ、おかあさん……
どこいっちゃったの?
また泣き出しそうになった女の子を前にして、どうすればいいかわからなくなる。
店員さんを呼んで事情を伝えた方がいいのかもしれない。
店内放送でお母さんを呼び出してもらえば……。
大丈夫、きっと見つかる。
焦る私とは対照的に、八木さんは落ち着いた様子だった。 どことなく、いつもよりも柔らかい空気を纏っている気がする。
八木さんは女の子の傍にしゃがみ込み、そっと頭を撫でてあげた。
ねえ、しゃぼん玉がどうして丸くなるのか知ってる?
普通、水をストローで吹いても、こぼれちゃうだけなのに。
ぐすっ、うう……
……ううん。しらないよ……。
……恥ずかしながら、私も原理までは知らなかった。
たとえば、コップの中に水が入ってるとする。
その水は、とても小さな粒がたくさん結びついてできてる。
この小さな粒を「分子」って言うんだけど……
おねえちゃん……むずかしいよ……
……失敗した。もっと噛み砕かないと。
ええと……
……妖精。
コップの水の中には、小さな妖精がたくさん棲んでる。
……もちろん、これはただのたとえ話で、 妖精なんて非科学的なものは存在しないけど、でも今は便宜的に……
……わかった。
ようせいさんは、わたしより小さいの……?
ずっと小さい。目には見えないくらい小さい。
だけど、妖精はとても頑張り屋さんで……
みんなで手を繋ぎあって、水がばらばらにならないように食い止めてる。
そして、いちばんエネルギーが安定する形が球体だから……
これを表面張力といって、界面活性剤が水の凝集力を弱めてくれるから……
八木さん! また難しくなってる……!
難易度が高すぎる……。
実際、女の子は八木さんの解説をほとんど理解できていないようだ。
でも、いつの間にか泣き止んでいる。 さっきまではなかった笑顔まで見せてくれるようになった。
たぶん、八木さんの必死さが伝わったんだろう。
心なしか、小さな瞳には好奇心の輝きみたいなものも見える。
……わかった!
ようせいさんが手をつないでるから、しゃぼん玉はまるいんだね!
そ、そう……!
気を取り直すように咳払いをして、八木さんはまた女の子の頭を撫でてあげた。
だから、お母さんが見つかるまで私と手をつなごう?
水の中の妖精みたいに一緒にがんばれば、きっと見つかる、から。
最後の方はちょっと照れ臭そうだったけど、 今のはなかなか言えない台詞だと思う。
人付き合いがあんまり得意じゃない子だと思っていたけど、 それはただ、私が八木さんのことを知らなかっただけだったみたいだ。
手を繋いで歩き始めた2人の背中を見て、温かい気持ちが込み上げてくる。
……あいちゃん?
落ち着いた女性の声が、後ろの方から聴こえる。
三人揃って振り向くと、 そこにはエスカレーターを昇って2階にやってきた髪の長い女性が立っていた。
女の子が嬉しそうに駆け寄っていく。やっとお母さんと再会できたのだ。
おふたりとも、本当にありがとうございます……! ほらあいちゃん、お礼言って!
うん、ありがとう!
もうはぐれちゃ駄目。わかった?
うん、きをつける!
エスカレーターを降りていく親子に手を振る八木さんの、 目元がいつもより細くなっていることに気付く。
これはもしかして……笑っているんだろうか?
相変わらず表情筋はあまり動いていないけど、 よく観察すれば感情がまったく見えないわけじゃない。
これもまた、新しい発見だ。
お母さん、見つかってよかった。
うん。八木さんのおかげだよ。
八木さんが優しく向き合ってくれたから、 あの女の子も心を開いてくれたんだと思う。
……私は、自分のためにやっただけ。
あの子が、昔の自分に似てたから。
へえ、どんな風に……
……あ。
えっ、どうしたの?
今日、荷物届くの忘れてた。
え、ホント? 何時の予定?
16時から18時まで。もう届いてるかも。
携帯を見る。現在はもう16時40分だ。
うわー……。これはどうだろう、ギリギリ行けるかな……?
ごめん先輩、急がないと……
うん、気を付けてね。
先輩こそ、気を付けて。
5メートルくらい走ってから、八木さんが急に立ち止まった。
振り返った彼女の表情は、今の私にはまだうまく読み取れない。
先輩、今日は久々に楽しかった。
また今度、麻雀でね。
少し名残惜しそうに見えたのは、思い過ごしだろうか。
……もしそうだとしたら、ちょっと嬉しいかも。
あちこち動き回るより、絶対に通る場所で待ってた方がいいと思う。
先輩、策士……!
だいぶ大袈裟な気はするけど、褒められて悪い気はしない。
女の子が泣き止むのを待ってから、スーパーの出入り口の方へ向かう。
読み通り、女の子のお母さんは数分も経たないうちに現われた。
おかあさん、どこ行ってたの!?
あいちゃんのこと探してたの。急にいなくなっちゃうから……
あ、よるごはんはカレー?
そ、そうだよ……?
子供特有の、コロコロと話題が切り替わる会話にたじたじになりながら、 お母さんがこちらに頭を下げてきた。
女の子に手を振って見送りながら、隣の八木さんが呟く。
……完全に、カレーの口。
あはは、私も。
でも、八木さんが買った食材じゃ難しくない? また野菜コーナー戻ろうか?
先輩……不思議なこと言う。
肉じゃがとカレーは、材料がほとんど同じ。常識。
いや……それはまあそうなんだけど……どこから説明すればいいのかな……
ひとまず、八木さんの夕飯はカレーで確定してしまったようだ。 スパイス類が並ぶ棚へと二人で向かう。
……八木さん、いきなり本格派カレーは難しいんじゃないかな?
まずは普通にカレー粉とか、市販のルーで試してから……
……って、ちょっと! カレーに豆板醬なんか入れないよ! 棚に戻して!
……もっと上級者になってから?
いや、そういうわけでもなくて…。なんていうか、概念からこう……
そうだ、先輩。今度、麻雀のときカレー作っていくね。
う、うん。楽しみにしておくね……
八木さんは相変わらずの無表情だけど、 夢中になってスパイスを物色している姿は、楽しそうに見えなくもない。
……とはいえ。
先が思いやられるなあ……。
先輩、何か言った?
ううん、そんなことないよ!
君の瞳に映る海
絆LV5で開放
Possible Endings
Scenario Script
Spots 1, Scenes 277, Choices 6, Endings 2
海だ~~っ!
フフフ! 一番乗りは貰った!
どうやら、僕たちしかいないみたいですね。
海水浴シーズンはあと少し先だからな。
でもでも、いいお天気でよかったね~。
本当にね。天気予報では曇りだったから……
おい! 普通、誰かひとりくらいは追いかけてくるもんだろう!?
たまたま予定が合ったから、いつも麻雀をしているメンバーで海にやってきた。
まだ泳げない季節だというのに、みんな随分なはしゃぎっぷりだ。
小鳥遊さんと未来さんなんか、子供みたいに砂浜を走り回っている。
……
八木さんは少しだけ眩しそうに、はしゃぎ回るみんなを遠目で見ていた。
最近よく話すようになったけど、こういう遊びに誘うのは初めてな気がする。 ちょっと緊張しているのかな?
……楽しそう。
と、八木さんは小さな声で言ってるけど、楽しそうならよかった……か?
八木さんは、楽しくないの?
……わからない。
肯定でも否定でもないとは……これは厄介かも。
海に来るのはいつ以来?
……十年と三ヶ月ぶり。
へえ、そうなんだ。
よくそんな正確に覚えてるな……。
家族で、初めて海に来たとき……
泳げなかったのが悔しくて、水泳を習い始め。
じゃあ、八木さんって泳ぐの得意なんだ?
……先輩、疑ってる?
い、いや、そんなことないよ!
……正直、八木さんはスポーツとは無縁な子だと思っていた。
……証明したいけど、海開きはまだ先。
……痛恨。
ばっ、と八木さんが突然こちらを見る。
……な、なに?
……先輩。
珍しい貝殻みつけたら、プレゼントするね。
みんな~! ビーチバレーしようよ~!
フフフ……。こんなこともあろうかと、僕がボールを持参しておいたのさ。
驚くがいい! この僕の圧倒的な独創性に!
最初に思い浮かぶ選択肢だと思いますけど……
でも、楽しそうじゃないか。ゆいちんと{var:player_nickname}もやるよな?
もちろん、断る理由はない。
隣の八木さんも、まだ少し眩しそうに首を縦に振った。
八木さんと英樹が同じチームになった。
スポーツとは無縁そうに見えたけど、八木さんの動きは意外と様になっている。
どちらのチームにもバレー経験者はいないから、実力はほぼ互角だ。
そりゃ!
ふんっ!
はあっ!
はは、たまにはスポーツも楽しいな。
……うん。楽しい。
よしっ、アタック決まった!
一進一退の攻防が続き、現在のスコアは20対19。勝負は大詰めだ。
ううっ……ここを落としたら負けちゃうよ~。
ええい、くらえっ! 火の玉サーブッ!
くっ、技名のわりに遅すぎてタイミングが……!
{var:player_nickname}さん、トスを頼みます!
自分の頭上にバレーボールが飛んできた。
横目でチームメイトの位置を確認すると、少し後ろにいた八木さんと目が合った。
心なしか、その瞳には自信のようなものがみなぎっている気がした。 だけど……。
相手コートをちらりと見る。 敵の三人はみんな後ろに下がっていて、前方がガラ空きだ。
これを決めれば勝利だ! さあ、どうする!?
八木さん、任せたっ!
ふっ……!
八木さんは狙いを定め、高く飛び上がってーー
スカッ
……
……
盛大に空振ったね、ゆいちん。
……不覚。
そのまま相手チームは勢いに乗ってしまい、私たちは逆転を許してしまう。
試合終了後、八木さんは砂浜を転がるボールを見下ろしながら立ち尽くしていた。
どうやら、八木さんは相当悔しがっているみたいだ……。
や、八木さん……?
インパクト時の右手の座標は間違ってなかった……はず。
踏み込みのタイミングが早すぎた?
いや、力積をもっと増やせば 運動エネルギーを維持したまま空中で姿勢を制御して……
その辺にあった木の棒で、八木さんは砂浜に何やら難しい数式を書き始めた。
八木さんはそんな私を無視し、計算を続けている。
ほら、あとでジュース買ってあげるからさ。
……先輩。
……
アイスコーヒーがいい。
……よし、任せなさい。
手を高く挙げて、後方を狙うと見せかけて、力を込めて回転を加える……完璧! がら空きの相手コート前方に、ボールがゆっくりと吸い込まれていく。
最初に反応した四宮くんが頭から滑り込んできたが、ちょっと遅すぎた。
ゲームセット。即席チーム対決は、私たちの勝利で終わった。
くそーっ、ぜんぜん反応できなかった……
策士だね~。まさかあの場面でフェイントなんて……
悔しがる敵チームの面々を見て、ちょっとだけ嬉しさが込み上げてくる。
チームメイトとハイタッチでもしようと思ったけど、なんだか空気が変だ。
……先輩
……(じーっ)
え? あっ、まさか。
ごめん……。最後、トス出して欲しかった……?
……
八木さんもいいポジションにいましたからね。 まあ悪い判断ではなかったと思いますが……。
{var:player_nickname}。キャプテンとして、 ここはゆいちんをフォローしてあげた方が賢明だろうね。
いつの間にかキャプテンになってた……
先輩。
八木さんが肩を指でつんつんしてくる。
コーヒー買ってくれたら、許してあげる。
えええ……
八木さんはどことなく楽しんでいるようにも見える。 これはもしかして、からかわれてるのだろうか?
ていうか、意外と悪戯好きな子なんだな……。
仕方ないなあ、買ってきてあげるよ。何がいい?
ブラック。ありがとう、先輩。
ちょうど喉が渇いたところだ。近くの駐車場に自販機があってよかった。
せっかくだし、みんなの分も買ってあげようか。
そう思いながら、八木さんのアイスコーヒーとジュース何本かを買って砂浜に戻る。
だが、八木さんの姿がどこにもない。
ねえ、八木さんどこ行ったかわかる?
え、唯ちゃん?
……ホントだ! ゆいちんどこ行ったんだろ?
こんな何もない砂浜で迷子になるものだろうか?
八木さんとさっき交わした会話を思い出す。
……まさか、泳げることを証明するために一人で海に……?
……探さないと。
うん、みんな呼んでくるね!
大変なことになった。
みんなで手分けして砂浜を探すけど、八木さんらしき人影はどこにも見えない。
沖に流されてるはずはない……とは思うんだけど……。
どこにいる? 八木さん、無事だよね……!?
ふと、百メートルほど先にある岩場が目に留まった。
砂浜から海に向かって突き出している岩場はごつごつしていて、起伏も激しい。
岩場を登ってみると、反対側の砂浜にしゃがみ込んでいる八木さんを見つけた。 岩場が死角になって見つけられなかったのだ。
……ふう。八木さん、やっと見つけたよ。
……先輩?
八木さんは何が何だかわかっていないらしく、 いつもの無表情で目線をきょろきょろ動かしている。
よかった~、みんな心配してるよ。ちょっと連絡するね。
……待って
まだ、場所までは言わないで。
……うん?
よくわからないけど、 ひとまずみんなに「八木さん見つかったよ」とだけチャットを送る。
八木さんが岩場へ登ってきた。
同じ目線に立った彼女の掌には、小さな白い欠片がいくつか乗っている。
まさか、貝殻探してくれてたの?
夢中で探していたら、こんなところまで迷い込んでしまったのか……。
珍しい種類、ではないけど……
先輩、あげる。
……ありがとう、八木さん。
……下の名前でいいよ。
え?
先輩。ちょっと二人で話そう?
もちろん、八木さん。
……
ゆ、唯。
八木さんは満足そうに頷いた。
波が岩肌にぶつかっては砕ける、心地よい音。
それに耳を傾けながら、二人で岩に座って水平線を眺める。
……大昔、地球が丸いことを誰も知らなかったころ。
とある古代文明では、ドーム型の地球を巨大な象たちが支えていて、
その下にはもっと巨大な亀が棲んでいると考えられてた。
面白いよね、先輩。
うん、確かに面白い。
昔の人は、地球が丸いことを知ったとき、どんな気持ちになったんだろう。
こんなに科学が進化した今、それ以上の新発見は訪れる……?
傾き始めた太陽が投げかける光で、唯の横顔は眩しく象られている。
そこには、今の自分ではまだ踏み込めない何かがある気がした。
唯の博識さは、科学者のご両親の影響?
うん。二人が生きてたころ、色んなことを教えてもらった。
……え? 生きてたころ……?
唯は、長い髪を指で梳かしながら頷いた。
中学校に上がる前、飛行機の事故で
……そんな顔しないで、先輩。
もう、昔の話。今は気にしてない。
そんなことない。……一人に慣れすぎたから、今はときどき不安になる。
みんなといるのは楽しいのに、それをうまく伝えられないから。
……私、笑顔が上手く作れない。
……先輩、
どうすればいいと思う?
今から頑張れば、笑顔も自然につくれるようになると思う。
笑顔を、自然に……
どんなふうに練習すればいいの?
れ、練習方法か……
改めて言われると、具体的に何をどうすればいいのか全然わからない。
あ、アレだよ。表情筋をストレッチしたり……
……どの筋肉を指してるの?
上唇挙筋? 口輪筋? 咬筋?
眼輪筋? 小頬骨筋? 口角下制筋?
……まさか、オトガイ筋?
ほ、ほとんど何言ってるかわからない……!
でも、表情筋は三十種類くらいあるから……
完璧に笑うには、その動きを全部制御しないと。
唯は目をはっと見開く。
みんな、そんな高度なことを毎日……?
修羅の世界……!
違う違う、難しく考えすぎてる!
そうじゃなくて、なんていうか……
ほら、口角をこう、人差し指で持ち上げてみるんだ。
これが笑顔の基本の形。やってみて?
唯はけっこう素直な性格らしく、 両手の人差し指で口角を無理矢理持ち上げ始めた。
ただなんというか、ものすごくぎこちない。
本当に笑顔を作るのが苦手なんだな……。
……先輩、何笑ってるの?
ああ、ごめんごめん。
必死に格闘してる唯が可愛かったから、つい……。
……可愛い? 私が……?
……
唯は何も言わず、こちらをじっと見つめてくる。
どうしよう、怒らせてしまったかな……。
あーっ、唯ちゃんここにいたの?
慌てて振り向くと、岩場の近くで小鳥遊さんが手を振ってきた。
他のみんなもこちらに気付いたらしく、安心した様子で歩いてくる。
……見つかった。残念。
ん? 何か言った?
……なんでもない。
結局、六人とも岩場の上で遊ぶことになった。
岩と岩の隙間にはたくさん水溜まりがあり、そこには小さな魚たちが泳いでいる。
きっとこの魚たちは、地球が丸いことなんて知らないんだろう。
みんなと一緒に小さな世界を眺めていると、唯が突然どこかを指さした。
その先を目で追うと、大量の触手をうねらせた奇妙な生き物が 岩を這い登ろうとしているのが見えた。
……ヤドカリ。
え、あれヤドカリなの!?
身を守るために、貝だけじゃなくてイソギンチャクを背負うこともある。
……でも、実際に見たのは初めて。
そうなんだ……あっ。
今、もしかして笑った?
見間違いじゃない。ほんの少しだけど、唯の口許は綻んでいる。
え?
気のせいかな。でも、私には笑ったように見えたよ。
……そうかな。
だとしたら、嬉しい。
そう呟いて、唯はまた足元の小さな世界に目線を落とした。
笑顔の練習はまだまだ続きそうだけど、ゴールは案外近くにあるかもしれない。
今はただ、その道のりを楽しむことにしよう。
……ほんと?
もちろん本当だよ。
楽しんでるとき、唯は眩しそうに目を細めてる。
まあ確かに口許は動いてないけど、それってれっきとした笑顔だと思うよ。
うん、この私が言うんだから間違いない。
……先輩は、やっぱり面白い。
唯はいつも、そう言ってくれるけど……
私のどこがそんなに面白いの……?
……いつも、他の人とは違う場所を見てるところ。
面倒見がいいところ。
誰にでも優しいところ。
……一緒にいて、楽しいところ。
……なんだか、照れ臭くなってきた。
ええと、その……。……海、綺麗だね
うん、綺麗。
あ、空が赤くなってきた。
陽が沈むまで、ここにいよう。
いいよね、先輩?
ああ。
……きれい。
私たちは夕日に目を向けた。なぜだか、今この瞬間が永遠に続けばいいのにと思ってしまった。
あーっ、唯ちゃんここにいたの〜?
慌てて振り向くと、岩場の近くで小鳥遊さんが手を振ってきた。
他のみんなもこちらに気付いたらしく、安心した様子で歩いてくる。
……見つかった。残念。
ん? 何か言った?
……なんでもない。
結局、六人とも岩場の上で遊ぶことになった。
岩と岩の隙間にはたくさん水溜まりがあり、 そこには小さな魚たちが泳いでいる。
きっとこの魚たちは、地球が丸いことなんて知らないんだろう。
先輩、ちょっといい?
小さな生態系を観察しているみんなには聴こえない声で、唯が囁く。
うん。どうした?
本を読んだり、コーヒーを作ったり……それも楽しかったけど。
本当はずっと、それを共有できる相手が欲しかった。
だから、みんなと……先輩と仲良くなれて嬉しい。
麻雀したり、海で遊んだり……少し前の自分では、考えられなかったから。
ありがとう、先輩。
私に、新しい世界を見せてくれて。
そう告げた唯の後ろでは、太陽が水平線の向こうに沈もうとしていた。
赤く染まっていく世界の中で、唯は控えめに、でも確実に微笑んでいた。
少なくとも、自分にはそういう風に見えた。
こちらこそありがとう、唯。
……私も、新しい世界に出会えてる気がするよ。
これから先も、唯のこんな表情をたくさん見られたらいいなと思う。
こんなこと、今はまだ口に出せないけど。
君といる世界
契約を結ぶことで開放
Possible Endings
Scenario Script
Spots 1, Scenes 309, Choices 5, Endings 3
……海から帰ってきてから微熱が出ているらしく、今日はなんだか身体も重い。
どうやら風邪を引いたらしい。 仕方がない、治るまで麻雀サークルのお誘いは断らないとだな。
まぶたも重い……これは一旦寝た方が……。
……。
(コンコン)
……あれ? 宅配なんて頼んでたっけ?
ドアを開けると、そこには唯が立っていた。 両手にはそれぞれ大きなビニール袋を抱えている。
……びっくりした。どうしたの?
CatChat見た。先輩、風邪ひいたって。
……体調、大丈夫?
わざわざありがとう。もう熱は下がったよ。
顔、まだちょっと青い。
そう? まあ病み上がりだからな。
……というか、その荷物は?
食材。
え?
滋養強壮にいい料理、作ってあげる。
……先輩に、早くよくなってほしいから。
ありがとう……。なんて優しい子だ……
風邪のお見舞いに来てくれて、しかも手作り料理を振る舞ってくれるなんて。 いつも無表情の唯がこんなにも優しくしてくれていると思うと、 思わず涙が……。
それより両手の荷物が重そうだったので、ひとまず受け取ってみる。
どれどれ……どんな料理かな?
ビニール袋の中身を覗いてみて、思わず息を呑む。
長ねぎ、小ねぎ、白髪ねぎ、玉ねぎ、赤玉ねぎ
ニラ、にんにく、らっきょう。
ええと……この細長いのは?
ギョウジャニンニク。
全部同じジャンルの野菜だ……。
ねぎは風邪に効くらしいから、たくさん揃えてみた。ネギ属の野菜。
これなら風邪、治るよね……?
あ、ああ。そうだね……
忘れてた! この子に料理を任せちゃ駄目だった! スーパーの日からわかってたはずなのに!
ていうか、コレでいったいどんな料理作る気だったんだ……?
じ、実はついさっき昼ご飯食べたばっかりでさ。お腹いっぱいなんだよね。
食材はありがたく受け取っておくね。ほんと助かる。
………
ご、ごめん! わざわざ食材買ってきてくれたのに!
ビニール袋の中身を冷蔵庫に入れて、玄関先へ戻る。
唯の表情は相変わらず読みづらい。 だけど、少し落ち込んでいる雰囲気は伝わってきた。
あー……ええっと……
唯、ちょっと散歩でもしない? ずっと寝込んでたから、身体がなまってるんだ。
……散歩、私もしたい。
心なしか、瞳の色が少し明るくなった気がした。
どこか行きたい場所とかある?
「エテルニテ」
コーヒーが美味しいカフェ。先輩も知ってるでしょ?
ああ、知ってるよ。
あそこなら、変な料理が出されることもないはず……。
見知った店内へと入り、店長見習いの七海礼奈ちゃんに挨拶すると、 一番奥の席に案内してくれた。
唯に強くおすすめされ、いつもと違うただのアイスコーヒーを注文する。
ここ、よく来るの?
うん、週一回くらい通ってる。
へえ、そうだったんだ。コーヒーが好きなの?
……コーヒーって、科学だと思う。
ほう。
まずは、コーヒー豆の分量。
少しでも誤差があったら、狙い通りの味にならない。 だから、計量器を使ってきちんと計る。できれば、グラム単位までこだわる。
豆を挽くときは、もっと注意が必要。
コーヒーミルを回すときは、早すぎても遅すぎても駄目。 豆に熱が伝わらないように、完璧なペースを保つ。
それと……、コーヒーの淹れ方によって、最適な粒度が違う。
あとはお湯の温度とか、注ぎ方とか……
なんか、こだわり始めたらキリがなさそうだな。
それこそ、科学の実験みたいだ。
でもこの店は、その配分が完璧。
だから、ここのアイスコーヒーは美味しい。
へえ~!
正直、唯の味覚はあんまり信用してなかったけど、 今の説明を聞いたら期待せずにはいられない。
お待たせしました。アイスコーヒーです。
七海ちゃんに礼を言って、よく冷えたグラスに手を伸ばす。
ストローで一口目を啜ると、すぐに衝撃がやってきた。
……え、美味しい。
普段から通ってるのに、そういえば、シンプルなアイスコーヒーを飲むのは初めてだった。 素人には何がどう凄いのかなんてわからないけど、 まあとにかく、びっくりするくらい美味しいのは事実だ。
他のメニューもそうだが、やっぱりここのコーヒーは、どれも他の店のものとは 明らかにレベルが違う気がする。
うん、美味しい。
……先輩? どうしたの?
…いや、ちょっと感動してさ。
唯は確かに味覚がちょっと怪しいけど、コーヒーに関しては別だったんだ。 ……というか、ものすごく信頼できる。
それに、知識量も抜群だ。 もっと深掘りしたら、何時間でも解説してくれそうな気配がひしひしと伝わってくる。
唯とはけっこう仲良くなった気でいたけど、新しい発見はまだまだあるみたいだ。 ちょっとだけ、微笑ましい気持ちになる。
唯は、いつからコーヒーが好きなの?
……たぶん、子供の頃から。
亡くなった両親が、よくコーヒーのことを教えてくれた。
美味しい淹れ方とか、珍しい豆の種類とか、豆の栽培方法とか。
先輩、知ってる?
とある地域では、卵を殻ごと入れて作るコーヒーがあるんだよ。
砂漠の近くでは、コーヒーは熱した砂の上で煮出して作るし、
コーヒーに紅茶をブレンドして飲んだりする人も。
子供の頃、親に教わった。
お、奥が深すぎる……
思えば、唯はいつになく饒舌だった。
相変わらず表情は乏しいけど、心の底から楽しんでいることは伝わってくる。
唯の瞳に、少しだけ暗い影が差した気がした。
よく注意して見ないとわからないほどの、ほんの少しの違いだけど。
……どうしたの?
……私が淹れると、なぜか美味しくならない。
どうしてだろう。コーヒーに関してだけは、唯の味覚は確かなはずなのに。
いつも、どうやってコーヒー淹れてる? 手順を一個ずつ確認してみようよ。
ええと……、まずはコーヒー豆を厳選。
うんうん。
グラム単位で分量を量って、豆に熱が伝わらない最適な速度でミルを回して……
うん、いいんじゃない?
香ばしさをプラスしたいから、魚粉をちょっと入れる。
うんうん。
ん!?
カツオの割合が一番大きいけど、トビウオとかイワシもしっかりブレンドする。 その方が、何となく味に深みが出そうだから。
隠し味は、未来から貰った新開発の調味料。 原料はよくわからないけど、とりあえず大さじ2杯くらい……
ちょっ、ちょっと待った!
アレンジが過激派すぎる……!
途中でやめてれば完璧だったのに……!
なるほど、「引き算」……!
その発想はなかった。ありがとう、先輩。
とりあえず、喜んでくれたなら何より……なのか?
……うん。大好きだった。
……ごめん。つらいこと思い出させちゃった?
ううん、大丈夫。二人がいなくなったこと、もう乗り越えてるから。
……そっか。強いな、唯は。
ご両親はどんな人だったの?
前にも言った通り、二人とも研究者だった。同じ研究室で出会ったみたい。
お父さんは無口で、あまり笑わない人だった。 でも本当はすごく優しくて、たまに変なことを喋ってみんなを笑わせてた。
……唯はお父さん似なのかな
お母さんは社交的で、友達も多かった。 いつも楽しそうに笑ってて、家事を手伝うと頭を撫でてくれて……
何ていうか、真逆な二人だな。
だからこそ、相性がよかったのかも。
……うん。そうかもね。
ストローに口をつけたまま、唯がこちらをじっと見つめていた。
顔に何かついてるのかな、と思って触ってみるけど、特に異常はないみたいだ。
……どうしたの?
ううん。何でもない。
よくわかんない子だ。でも、いつになく楽しそうなのは間違いない。
「エテルニテ」を出ると、二人で散歩を再開した。 カフェから歩いて十分ほど経つと、川沿いにある散歩道に到着した。
吹き抜ける風が気持ちよくて、 風邪のことなんて忘れて、いつまででも歩いていられる気がした。
……先輩、顔色よくなってきた。
ほんと? ……確かに、身体軽くなってきたかも。
コーヒーの効果、だね。
唯が一瞬だけ笑ったように見えたけど、光の加減でよくわからなかった。 宝石みたいな川面の輝きはとても綺麗だけど、肝心なところを覆い隠してしまう。
……私、たまに想像する。
もしも、お父さんとお母さんがまだ生きていたらって。
唯は欄干にもたれかかり、眩しそうに川面を見つめた。
もう大学生だから、三人で手を繋いで帰ったりはしないと思う。 会う頻度もどんどん減っていくはず。
だけど、お父さんとお母さんはいくつになっても仲良しで、 こんな川沿いを楽しそうに話しながら散歩してる。
家に帰ったらコーヒーを淹れて、今日起きたことを一つずつ振り返ったりする。
私は、二人の話を聞いているだけでいい。
……それだけで、すごく楽しいんだと思う。
……先輩。
唯はこちらを振り向いた。
私、本当は寂しかったのかな?
二人が亡くなったこと、もう乗り越えたと思ってたけど……
昔のことを思い出したら、何ていうか……。 これじゃ駄目なのはわかってるのに……
駄目なんかじゃないと思うよ。
え?
急いで乗り越える必要なんてない。 たまには立ち止まって、ゆっくり二人のことを思い出したらいいんだ。
……って、私が軽々しく言える話じゃないかもしれないけど。
……ううん。ありがとう。
唯の隣に歩き、欄干に身体を預ける。
そろそろ太陽が傾き始めていた。夕陽を浴びた水面が、輝きをさらに強めている。
……お父さんとお母さん、「パラレルワールド」について研究してた。
パラレルワールド……? 何それ。
……よくわからない。あんまり教えてくれなかったから。
私たちのいる世界と違う世界とか、そういう感じ……?
私も、そう解釈してる。言葉の意味から想像するしかないけど……
なんかSFみたい。本当にそんなのあるのかな?
わからない。
……先輩。もし別の世界があったら、行ってみたいと思う?
ふふ、先輩らしい。
そういう唯は? 別の世界に行きたいと思う?
……私は、
今はもう、この世界を大切にしたい……かも。
……だって、
先輩が、近くにいてくれるから。
いつの間にか、唯の視線がこちらに向けられていた。
すごい至近距離だ。正直照れるけど、今は目を逸らしたら駄目な気がする。
夕景を映し出して綺麗に輝く瞳を、私は正面から見つめ返す。
はは、なーんて冗談……
がばっ!と、最後まで言い終わる前に、唯が手を握ってきた。
その目はさっきまでよりもさらに強く輝いている。
ただ、なんというか……。嫌な予感……!
先輩!
は、はい!
私……先輩となら、バリスタの高みを目指せるかも……!
ば……ばり……?
手を握ったまま、唯はどこかへと走り始める。
その足取りには、ちょっと怖いくらいに迷いがなかった。
あの……ここは……?
行きつけの漢方屋。
漢方屋に行きつける人っているんだ……
古ぼけた店内には、何とも形容しがたい香りが漂っていた。
所狭しと並べられた瓶には、色んな種類の乾燥植物が詰められている。
たぶん、漢方薬の材料になる生薬ってやつだろう。
な、なんで漢方? コーヒー作るんじゃなかったの?
……薬膳コーヒー。
何、それ……
長年の研究で、私が辿り着いた最適解。
コーヒーは美味しい。漢方は身体にいい。 この2つを組み合わせれば完璧な存在が生まれる。 ……証明完了。
なんにも証明できてない! 味! 味を犠牲にしちゃってるから!
……うるさいねえ。他の客に迷惑だよ。
店の奥から、魔女みたいな恰好をしたおばあさんが姿を現した。 老店主は黒魔術でも放てそうな見た目の杖を使って、 こちらへとゆっくり歩いてくる。
もっとも、他の客なんてどこにもいないがね。
……まあいい。話は聞かせてもらったよ。
薬膳コーヒー……。面白そうじゃないか。
!!
一緒に生薬を選んであげよう。……なに、特別に割引してあげるから安心しな。
ヒヒ……。完成したら私にも飲ませておくれよ……
はい!
……唯? そんな眩しい目で……
……あ、駄目だ。もう聞いてない……!
唯と老店主はあれこれと議論しながら、 黒魔術の材料にしか見えない品々を紙袋に詰めていく。
どんな分野の専門家が見ても、 あれがコーヒーの材料だなんてわからないだろう……。
先輩、待たせてごめん。
……ああ、もう選び終わったの?
うん。試作会、楽しみだね?
え、何? 試作会?
さっそく、先輩の家でコーヒー淹れてあげるよ。楽しみにしてて。
ひっ、ひいいいいいいっ!
表情じゃわからないけど、唯はたぶん試作会をすごく楽しみにしている。 断るわけにはいかない。
……ま、まあ、漢方だし。
少なくとも、風邪は完璧に治るはずだ……。
………大丈夫、だよな?
どうにか自分に言い聞かせ、流れに身を任せることにした。
思わず口に出したけど、なんとなく気まずくなって、頬が熱くなるのを感じた。
(ちょっとカッコつけすぎたかな……?)
不安になって目を向けると、唯は顔を伏せていた。
(照れているんだろうか? それとも呆れてる?)
唯が無表情なのはいつものことだけど、いまはちょっともどかしい。
……わ、
ん?
私と出会って、先輩は何が変わった?
唯はまだ俯いたままだ。
んー、何だろう。
でもやっぱり、世界が広がった気がするな。
……大袈裟。
大袈裟じゃないよ。 唯がいろんな知識を教えてくれて、物事の見え方が変わったっていうか……
……うん。今までよりももっと、この世界で生きるのが楽しくなったと思う。
……ねえ。
深く俯いたまま、唯は言う。
先輩って、すごく変な人だよ。自分で気付いてる?
やっと顔を上げてくれた唯は、ほんの少しだけ微笑んでいるような気がした。
本当に僅かな、いつも近くで見ていないと 気付けないくらいの変化かもしれないけど。
言ってることは普通なのに、他の人とは雰囲気が違う。
……だから、目が離せないのかも。
私も、先輩と出会って変わった。
自分自身に、興味を持てるようになった。
自分のことを、もっと知りたいって思えるように……
長い髪を風に梳かしながら、唯が川の方へ顔を向ける。
……先輩、私ね。
最近気付いたけど、大きな弱点があるみたい。
自分が美味しいって思ったものと、他の人の反応に、何だかズレが生じるの。
コーヒーなら、そんなことないんだけど。
……隠しててごめんね。
大丈夫、ぜんぜん隠せてなかったから
ツッコミたい衝動を堪えつつ、もっと前向きな言葉を探す。
一緒に乗り越えていこうよ。
ほんと? でも、私にできるかな。
できるよ。私が保証する。
……ふふ。
今度こそ、唯ははっきりと微笑んだ。
たぶんこれは、見間違いなんかじゃない。
さっそく、一緒に料理つくろうか。
食材は唯が買ってきてくれたし。ねぎ系ばっかだけど。
……ちなみに、何を作ってくれる予定だったの?
ハンバーグ。
え?
え?
道のりはなかなか険しそうだな……
でも、きっと乗り越えられる。
そう言い聞かせながら、二人並んで歩き始めた。
……とはいえ、あの食材でどんな料理を作ればいいんだろう……?
唯が、目を大きく見開いた。
彼女がここまでわかりやすく表情を変えるのを、初めて見た気がする。
あっ……
一筋の光が、唯の頬を伝っていく。
唯が慌てて目尻を拭ったのを見て、ようやくそれが涙なのだと気付いた。
ご、ごめ……
宇宙の素粒子の総量は、永遠に変わらない。
え……?
唯はこちらに背を向けて、慎重に語り始めた。
その声が少し震えているように思えるのは、錯覚ではないのかもしれない。
物理学の基礎的な考え方。先輩は知ってた?
聞いたことなら……あるかも。
唯のご両親が科学者だったことを、そして唯が二人を愛していたことを思い出す。
物理学にはまるで縁がない自分でも、 彼女が今、何か大切なことを伝えようとしているのはわかった。
物質が燃えて灰になっても、また別の物質を形作る素粒子になって、 世界のどこかを漂う。物理法則でそう決まってる。
だから、お父さんとお母さんも、世界から消えてしまったわけじゃない。
二人の素粒子は、新鮮な風に形を変えて、今も世界のどこかを漂ってる。
………
…もしかしたら、
私と先輩を引き合わせてくれたのは…… 素粒子になって風に運ばれてきた、二人だったのかもしれない。
もしそうだとしたら、本当に素敵な話だ。
……飛躍しすぎ?
ううん、そんなことないよ。
また一つ、唯の頬を水滴が伝っていく。
何も言わずに隣に並んだ。
泣き顔を覗き込むなんて無粋な真似はしたくない。
ただ隣に立って、同じ景色を見つめていたかった。
誰かが遺した素粒子が漂う、この美しい世界の一瞬を。
……先輩。
どうした?
ううん。夕陽、綺麗だね。
……そうだね。
どちらからともなく、歩き始める。
行き先はもう決まっていた。 唯が買ってくれた食材たちが、今も冷蔵庫の中で待ち侘びているのだ。
……これからもよろしくね、先輩。
今まで見たことがないくらいはっきりと、唯は穏やかな笑みを浮かべている。
どこかで見守ってくれている素粒子たちを安心させられるくらい、 この笑顔を大切に守っていきたいと思った。