白石奈々
「他人が恥ずかしくなるほど、フレンドリーで無頓着だ。」これはほとんどの人がもつ奈々に対する第一印象だ。クラス委員でもある彼女は、持ち前の明るい性格と強い責任感により、多くの学生たちから信頼を集めている。運動神経がいいため、よく運動部に助っ人に行くことがあるが、本人は部活に入るつもりはなく、クラス委員の仕事のほうが大切だと思っている。
Profile
Skins
白石奈々の初期衣装
白石奈々と契約を結んだ時に入手できる着せ替え衣装
「夏祭り・のんびりサマーデイ」にて購入できる限定の着せ替え衣装
「メイドとお茶会」にて購入できるメイド服テーマの着せ替え衣装
「ウィンターワンダーランド」にて購入できる、クリスマステーマの着せ替え衣装
「君にエールを!」にて購入できる、運動会テーマの着せ替え衣装
Emotes
Bond Requirements
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プレゼント・普通
あざ~す
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プレゼント・好み
意外!後輩クンはどうしてウチが好きなものを知ってるわけ???事前調査でもした?うれしいなー。いい子いい子!
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絆レベルアップ5
んん...後輩クン......ふわぁ~~あ、さっきまで寝てたから、別に何も変なこと言ってないよ?......はは
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絆レベルアップ1
うんうん!後輩としての自覚ができてきたか~。よしよし!
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絆レベルアップ2
ウチと同じように過ごしたいなら、十分な体力が必要だよ。早速、今日から一緒に部活巡りに行こうか!
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絆レベルアップ3
後輩クンのこの間の成績...それだとまずくない?そんなんじゃダメでしょ!ウチが先輩として後輩クンに教えてあげる!
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絆レベルアップ4
あっ!こ、これ!?別にたまたま見てただけで何でもないってば!ただの少女マンガだって...!
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隐藏语音 - 新年
後輩クン、明けましておめでとう!初詣は何をお願いしたの~?ウチとずっと一緒にいたいって?新年になったばかりなのにもう先輩の愛が欲しいのかー。ははは、こやつめ愛いの~、愛いの~。
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隐藏语音 - 情人节
あーげる!ウチの愛がたっぷり詰まった特製義理チョコだ!えぇ~なんで他の男の子と同じように泣いてるわけ?本命じゃないからってそんなに悲しかったわけ?あぁ~もう、わかったわかった、これは本命!本命!いいね!?
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メイン1
丸くて、柔らかくて~ん~~~、何回触っても気持ちよくてやめられないなぁ~。......ねぇ、後輩クン、その表情何かキモいよ?変なこと考えてたでしょ~?アハハ、バレーボールだよバレーボール!後輩クンが変なことを考えてたなら反省すること!いいね?
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メイン2
何をしているかって?勉強だよ、見ればわかるじゃん?......その目は何?ウチだって一応クラス委員だし、部活に夢中でも、赤点取ったらダメじゃん?
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メイン3
ふぅ...今日はいくつ部活に行ったっけ...?もうクタクタ...後輩クン、マッサージしてくれる?女の子の体に触りたいでしょ~?もしもーーし、美少女に触れる機会が来たからって、何かいやらしい想像をしたのが顔に出てまーーす
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メイン4
はぁ...雀荘のベテランはやっぱり一味違うなぁ。ウチみたいな正直な打ち方の人が気軽に挑戦していいものじゃないや。私には直球勝負がお似合いだし
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メイン5
後輩クン、聞いてよ!何日か前にウチの弟が「アネキみたいな男女(おとこおんな)には男に縁がない」なんてことを言ったんだよ。そんなわけなくない??
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メイン6
本当に不思議...前までは少女漫画を読んでも何か微妙な気持ちになったけど......今は全然普通に読めてるなぁ。ウチが変わったってことなのかなー
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メイン7
へへーん、最近雀荘のべテラン相手でも余裕になってきた。先輩としてウチも絶えず成長しているのだよ!後輩クンも遅れないでウチについてきてよ!
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メイン8
男の子って女の子の気持ちをはっきりさせたいバカだけど、女の子は男の子が考えて考えても何の成果も得られていない様子を見るのが好きなバカなんだよ
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ログイン・普通
あ、後輩クン来たんだ。いつものジュースお願いね!ついでにキミが好きなジュースも買っていいよ。どうしてキミをパシるかって?わかってないなぁ~。かわいい女の子を手伝えるなんて青春を謳歌してるでしょ~
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ログイン・絆LvMAX
はい後輩クン、今日のお弁当だよ。日頃のお使いのお礼!ウチの腕が上がったかどうか早く味見して確かめてみてよ~
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契約を結ぶ
卒業後はどうするかって?バカなことは言わないの!後輩クンはずっとウチの後輩クンだし、......ウチはずっと後輩クンの先輩だぞ☆
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SP-友人戦部屋に入場する時
お邪魔しまーす
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SP-友人戦部屋で準備した時
さぁさぁ、みんなもう準備できたでしょー?早くやろ!
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出会い
白石奈々、来~たよ~。よろしくね、後輩クン!先輩後輩を勝手に決めちゃったけど、別に気にしないで。私がちゃんと面倒見てあげる!
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北抜き
ペーを抜くよん♪
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チー
チー
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ダブル立直
ダブルリーチ!
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カン
カン
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ポン
ポン
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立直
リーチ!
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ロン
ごめん、この牌はウチがもらいまーす
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ツモ
へへ~、ラッキー!
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白
ハク
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北
ペー
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純全帯幺九
ジュンチャン
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純正九蓮宝燈
チューレン九(きゅう)メン待ち
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大三元
ダイサンゲン
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大四喜
大スーシー
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地和
チーホー
-
ダブル立直
ダブリー
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東
トン
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ドラ
ドラ
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ドラ10
ドラ10(じゅう)
-
ドラ11
ドラ11(じゅういち)
-
ドラ12
ドラ12(じゅうに)
-
ドラ13以上
ドラたくさん
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ドラ2
ドラ2(に)
-
ドラ3
ドラ3(さん)
-
ドラ4
ドラ4(よん)
-
ドラ5
ドラ5(ご)
-
ドラ6
ドラ6(ろく)
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ドラ7
ドラ7(なな)
-
ドラ8
ドラ8(はち)
-
ドラ9
ドラ9(きゅう)
-
ダブル北
ダブペー
-
ダブル東
ダブトン
-
ダブル南
ダブナン
-
ダブル西
ダブシャー
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断幺九
タンヤオ
-
対々和
トイトイ
-
二盃口
リャンペーコー
-
発
ハツ
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国士無双十三面待ち
コクシ十三メン待ち
-
国士無双
コクシムソウ
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海底摸月
ハイテイ
-
河底撈魚
ホウテイ
-
混老頭
ホンロートー
-
混全帯幺九
チャンタ
-
混一色
ホンイツ
-
九蓮宝燈
チューレンポートー
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嶺上開花
リンシャン
-
立直
リーチ
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流し満貫
流しマンガン
-
緑一色
リューイーソー
-
南
ナン
-
平和
ピンフ
-
槍槓
チャンカン
-
七対子
チートイ
-
清老頭
チンロートー
-
清一色
チンイツ
-
三暗刻
サンアンコー
-
三槓子
サンカンツ
-
三色同刻
三色(さんしょく)ドーコー
-
三色同順
三色(さんしょく)ドウジュン
-
四暗刻
スーアンコウ
-
四暗刻単騎
スーアンコウ、タンキ
-
四槓子
スーカンツ
-
天和
テンホー
-
西
シャー
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小三元
ショーサンゲン
-
小四喜
小スーシー
-
一盃口
イーペーコー
-
一発
イッパツ
-
一気通貫
イッツー
-
中
チュン
-
ツモ
ツモ
-
字一色
ツーイーソー
-
清算一位
人生の先輩なんだからウチが勝つのは当然ってね!でしょ?後輩クン!
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清算一位・高い点数で勝利
よーーーし!ウチの勝ち!
-
清算一位・ロンで勝利
へん!どう?この一発は!
-
倍満
倍満(バイマン)
-
九種九牌
キュウシュキュウハイだよ。残念だけど流そう。
-
数え役満
数え役満(カゾエヤクマン)
-
満貫
満貫(マンガン)
-
ノーテン
ノーテンかぁ......ショック~。最後までテンパれなかったのはついてないなー。
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三倍満
三倍満(サンバイマン)
-
四風連打
あぁーん...スーフーレンダかぁ...いい配牌だったのに...
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四槓散了
スーカンサンラ、残念...
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四家立直
あぁもう…スーチャリーチとかそんなのひどくなーい?
-
跳満
跳満(ハネマン)
-
聴牌
テンパイだよ~
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役満
ヤクマン
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ダブル役満
ダブルヤクマン
-
トリプル役満
トリプルヤクマン
-
四倍役満
四倍(よんばい)ヤクマン
-
五倍役満
五倍(ごばい)ヤクマン
-
六倍役満
六倍(ろくばい)ヤクマン
-
SP - ドラを捨てた時
ちぇっ、しまったなぁ!
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SP - 倍満/三倍満聴牌
ンフフ…あ、ダメダメ!落ち着こう、顔でバレちゃう!
-
SP - 同じ牌を連続に捨てた時
あ!また来たし!しつこいのは嫌いになるし!
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SP - 残り牌が10枚以下の時
ほぼ終わりじゃん…振り込まないように気をつけなきゃマズイかも~
-
対局開始
はぁ~?なんでみんなそんなにガチガチに固まっちゃってるの?リラックスリラックス!楽しむのが大事!
-
SP - 役満聴牌
お!こ、これは…鬼ヤバじゃん?
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帯幺九
帯幺九(タイヤオチュウ)
-
根
根(ルート)
-
将対
将対(ジャントイ)
-
金勾釣
金勾釣(キンコウテャオ)
-
嶺上放銃
嶺上放銃(リンシャンホウジュウ)
-
龍七対
龍七対(ロンチートイ)
-
清対
清対(チントイ)
-
清金勾釣
清金勾釣(チンキンコウテャオ)
-
清龍七対
清龍七対(チンロンチートイ)
-
清七対
清七対(チンチートイ)
-
清十八羅漢
清十八羅漢(チンジュウハチラカン)
-
清幺九
清幺九(チンヤオチュウ)
-
十八羅漢
十八羅漢(ジュウハチラカン)
Spot Voices
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Spot Voice 15
抱歉1
-
Spot Voice 16
开心1
-
Spot Voice 17
疑问1
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Spot Voice 18
开心2
-
Spot Voice 19
疑问2
-
Spot Voice 20
开心3
-
Spot Voice 21
疑问3
-
Spot Voice 22
语气1
-
Spot Voice 23
开心4
-
Spot Voice 24
语气2
-
Spot Voice 25
开心5
-
Spot Voice 26
开心6
-
Spot Voice 27
打招呼1
-
Spot Voice 28
语气3
-
Spot Voice 29
感谢1
-
Spot Voice 30
惊讶1
-
Spot Voice 31
开心7
-
Spot Voice 32
语气4
-
Spot Voice 33
肯定1
-
Spot Voice 34
语气5
-
Spot Voice 35
惊讶2
-
Spot Voice 36
语气6
-
Spot Voice 37
语气7
-
Spot Voice 38
语气8
-
Spot Voice 39
开心8
-
Spot Voice 40
伤心1
-
Spot Voice 41
伤心2
-
Spot Voice 42
打招呼2
-
Spot Voice 43
语气9
-
Spot Voice 44
伤心3
-
Spot Voice 45
惊讶3
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Spot Voice 46
开心9
-
Spot Voice 47
开心10
-
Spot Voice 48
惊讶4
常識外れの小さな観衆
絆LV1で開放
一飜市中心部のショッピングモール。その最上階では、定期的にヒーローショーが催されている。 「疲れた~……」ショーが終わり、怪人役のK氏は、ようやく肩の荷が下りたといった感じで控室に戻ってきた。まさか、ショーの真っ最中にあんな「トラブル」が起こるとは……。 ついさっきのショーで、協力してもらっていた子供達の中の一人の少女が「ウチらをつかまえたのは、ヒーローをおびきだすためだよ! ワルモノの思い通りになっちゃだめ!」と他の子供達に呼びかけた。そのせいで、子供達はお決まりの流れに逆らって、少女の指揮のもと怪人に立ち向かう構えを見せたのだ。怪人がどんなに脅しても、頑としてヒーローを呼ぼうとしなかった。 仕方なくK氏は子供達を集め、協力して欲しいと小さな声でお願いした。終わったらキャンディをあげるから、と報酬も用意してみたのだが、「ウチらを虫歯にする誘惑だ!」と、またもや断られてしまった。 事態の収拾がつかなくなると悟ったヒーローは、「子どもたちの呼ぶ声が聞こえたぞ!」と高らかに叫び、登場を強行した。その後は、怪人達が襲いかかり、殴られ、倒れるという台本通りの流れで一気に最後までいけたので、何とかショーを台無しにせずに済んだ……。 K氏が蒸し暑いボディースーツを脱ごうとした時、背後に引っ張られる感触があった。振り返って目線を下げると、明るい金色が目に飛び込んできた。目の前にいる金髪の少女こそ、子供達を率いて怪人たちに対抗し、「トラブル」を引き起こした張本人だ。 K氏は、この少女が近所の小学三年生、白石奈々であると知っていた。いつも元気いっぱいに挨拶してくるな、と印象に残っていたのだ。 「さっきかわいそーだったから、これあげる」と言って、白石奈々はチョコレートを手渡してきた。 「さっき……?」K氏は呟きつつ記憶を辿り、しばらくしてやっと何のことか気付いた。 ショーが終わりに差しかかった時、やんちゃな子達が張り切って小さな拳を振りかざし、倒れている怪人にトドメを刺そうとしていた。K氏達怪人役もこういうことには慣れっこで、ポコポコ殴られるのもショーの一環だと受け止めていた。 驚いたのは、それまで率先して怪人達を困らせていた白石奈々が、今度は「やめて!」と怪人達の前に出たことだった。「負けをみとめた人をさらにたたくなんて、ひきょうじゃないの!?」 隣にいたヒーローが親指を立て、奈々の言葉に同意しているのを見て、やんちゃキッズは渋々拳を下ろした。K氏もさりげなく親指を立てた。どんなにボディースーツが分厚くても、殴られるのが好きな人などいない。 「ヒーローとの記念撮影を蹴って、わざわざ怪人を慰めに……? 変わった子だなあ」心の中でツッコみつつ、ほっこりするK氏。怪人役を務めるようになって長いが、子供に慰められたのは初めてだった。「ふん、俺が腹いっぱいになって元気百倍した時が、あいつの最期だぞ。怖くないのか?」 「こわくないよ、あなたたちいーっつも負けてばっかりだもん! どうせ計画は失敗に終わるんだから、悪いことはしない方がいいよ」奈々は無邪気に痛いところを突いた。 もちろん、そうですねと首を縦に振るわけにはいかない。そんなことしたら、ヒーローショーが成立しなくなる。かといって、「すべてただのショーだ」と言って子供の夢をぶち壊すのも、プロ意識の高いK氏にはとても出来なかった。 K氏はちょっと考えて、そうだ、彼女をからかってやろうと思いついた。K氏は不敵な声で、「甘いな、俺達の後ろには、す~~~っごく悪い奴らがいるんだ。俺達はそのお方から指示を受けているんだぞ……」と言った。少女の顔が強張ったのを見て、K氏は笑いを堪えながら、おどろおどろしい声で続けた。 「仕事だ……仕事が俺達を悪に駆り立てるのだ! 仕事が人の考える力を奪うのだ! 全て仕事が悪いのだ! 仕事こそ、俺達怪人の存在意義なのだ~!」 「お仕事……」奈々ははたと気付いた。怪人の言葉が、彼女の長年の疑問を晴らしたのだ。テレビで見るスーパーヒーローが、何か仕事をしている様子もなく、どんな時も怪人をやっつけに行けるほど暇そうにしているのは、仕事が邪悪なものだからだったんだ! ヒーローは仕事をしてないから、正義のために戦えるんだ! この日、とてつもなく重大なことを悟った奈々であった……。
ウチの可愛いボールちゃん
絆LV2で開放
「良い子たち、お待たせ~。キミたちの奈々が来たよ~!」 毎日の部活動が終わると、白石奈々はいつも体育倉庫に残って様々なボールの手入れをする。 奈々は綺麗に磨いたバレーボールにうっとりと頬ずりしながら、「えへへ、綺麗になったね、いい子だね~」と声をかけていた。まるでペットと戯れるようだ。それもそのはず、彼女は、行きかう人々を楽しませるだけ楽しませて、最後には町のどこかへと消えてしまう小さな生き物達のように、生徒に使われたまま倉庫の隅に放られているボール達を見過ごせず、自分の手でこの「コロコロ」たちをピカピカにしてあげるんだと思っていたのである。 動機となった同情と、磨き終わった後の達成感、そしてコートの上で触れ合った友情が合わさって、奈々の心には過剰とも言えるほどの愛情が芽生えていた。 手にしたボールは、奈々にとっては最早ただの物ではなく、活力に溢れた生命体になっていた。彼女は全てのボールの特徴を覚え、一つひとつに名前をつけ、本物のペットのようにボールを撫でながら、コートの上での素晴らしい活躍を褒めちぎった。 誰かが見たら異常に思うだろうな……と彼女自身もわかってはいたが、放課後の体育倉庫なら、自分だけの楽しみを阻む人も現れないだろうと信じ切っていた。だから、二之宮花がひっそりと背後に現れたことに気づいた時には、何もかも遅かった。 目の前の光景を見て、おおよその状況を察した花は、「……大丈夫です、わかってます」と口を開いた。 察したからこそ、奈々がどれだけ気まずい思いをしているかがよくわかった。花は明るく朗らかな普段の奈々に思いを馳せ、名状しがたい秘密を知ってしまったような感覚がした。ひたすら、声をかけてしまったことを、とても、心から、非常に後悔した。 花は、今すぐ逃げ出したい衝動をこらえ、何とか笑顔を作ろうと努力しながら、どうやってこの沈黙を破るべきか考えた。奈々は、自分のような存在感のない生徒にも挨拶してくれる貴重な優しい人だった。だから、奈々一人に気まずい思いをさせてはいけないと思った。 「そ、そっか。よかった、花ちゃんがわかってくれる人で……」 向こうから口を開いてくれたので、花はホッとした。そして、「私もよくそういうことをするので、何もおかしくないですよ」と返し、その流れで別れを告げようとした。しかし、その視界はすぐさまバレーボールで埋め尽くされた。 「ふ~……花ちゃんに変態さんだと思われたらどうしようって思ったけど、まさか花ちゃんもボール愛好家だったなんてね。それじゃ、これからは同志だね!」 いえ、それは誤解です……弁明の言葉が口から出かけたが、目を輝かせ、ハイテンションな様子の奈々を前にしては飲み込まざるを得なかった。奈々は「ポヨン」という名前のバレーボールのお世話を花に頼み、自分は再び床に座り込んで、他の「コロコロ」を磨き始めた。 花はすっかり圧倒されて、流れでバレーボールの「ポヨン」を一通り撫でまわしてから、布巾を手に残りのボール磨きを手伝い出した。 「小さい小さいボールさん、コロコロ転がるボールさん、ポンポン跳ねるボールさん、可愛い可愛いボールさん、えへへ~」 「そ、それ、歌わないといけないんですか……?」花は不安混じりに倉庫の入り口を見た。どうか、誰も通りませんように……
「目安箱」の記録
絆LV3で開放
朝葉高校で最も親切な生徒として知られる白石奈々は、誰かの頼みを拒んだことは一度もない。とはいえ、忙しさのあまり、助けが必要な人のもとに向かえないこともままある。 奈々は、「ヒーローは困った人を見過ごすなんてしないんだ!」という信念のもと、生徒達の頼み事を把握しやすくするために、教室の外の壁に「目安箱 by 奈々」と大きな字で書かれた木箱を架けた。 奈々は、時間がある時には過去にやった頼まれ事の記録を見返して、改善できることはないか確認することにしていた。大抵の依頼は、自分あるいは交流のある誰かの力をもってすれば、解決法を見つけられた。 しかし、全ての依頼が順調に行くとは限らない。例えば、その後すぐに受けた匿名の依頼では…… 依頼10:弱点克服 依頼人:匿名 依頼内容:ゆずはヘビやカエル、クモといった生き物が怖いらしいの。弱点克服に協力してあげて。 経過:ゆずちゃん、そういう生き物に出くわすと怖くて逃げ出しちゃうんだ……初めて知ったな。最初は、無理に怖いものを克服しなくていいんじゃない? って言おうと思ってた。実際ウチも犬が苦手だしね。でも、依頼人さんによると、ゆずちゃんはしょっちゅう不良グループと揉めてるんだって。もし相手がこの弱点を突いてきたら、ゆずちゃんが危ないよね。うん、やっぱり克服する方法を考えることにしよう。 経過2:まさかあそこまで怖がるなんて。大声で「来ちゃイヤ~~~~!」って叫んで……いや、ゆずちゃんの名誉のために、今回のミッションの経過は詳しく書くのはやめとこう。とにかく、依頼は失敗だなぁ。 はぁ……最近、ゆずちゃんはウチを見ると遠くまで逃げていっちゃうし、レッパンズにも威嚇されちゃうし、何とかしてあの子たちの機嫌を取らないと。 でも、諦めないもんね! もう少し考えれば、きっと別の方法を思いつけるはず。 依頼人評価:本人に運命に立ち向かう勇気がないだけね、お気になさらず。 時には、解決したはずが実は解決出来てなかったような依頼もある…… 依頼19:近況確認 依頼人:石原碓海 依頼の詳細:最近、リンが全然学校に来てなくて、電話にも出ないんだ。あいつの家に行って様子を見てきてくれない? 出席率がヤバいから、なるはやで学校に来させたくてさ。 PS:非常時には救急車を呼ぶんだよ。 経過:会長から聞いた住所を頼りにリンくんの家に行って、様子を見てきた。部屋の中は大惨事以外の何物でもなかったよ。カップ麺の容器の山で、もう何日も外に出てないことがハッキリした。 リンくんは「今抱えてる案件が片づいたら行く」って言ってたけど、明日も来なかったら、副会長が直々に家まで行くことになると思う。 話を聞いた感じだと、邪魔が入らなければ一晩で仕事が全部片づくみたい。だったら、集中出来るように、家事を手伝ってあげよう。だってウチらは、問題児リスト入りしてる仲間だもんね。 経過2:約束破られちゃったんだけど! 案件が終わったら学校に行くって言うから家事を手伝ってあげたのに、次の案件に手を付けるなんて! もう知らない! 副会長にこってり絞られちゃえ! 依頼人評価:リンからの伝言『めんど……オカンかよ……でもまぁ、正直助かった。ありがとう。』 直近の依頼人評価を見て、奈々は「失礼じゃない!? ピッチピチの女子高生になんてこと言うかな!? 今度行ったらLANケーブル引っこ抜いてやる!」と言いながら、ふくれっ面で記録ノートを閉じた。ちょうどアラームが鳴ったので、明かりを消して布団に潜り込む。「怒らない怒らない。早寝早起きして健やかな精神をキープしないと。明日はもっとたくさんの依頼がウチを待ってるんだから!」 「あっ、そういえば、ゆずちゃんの弱点克服を手伝った時、レッパンズがうっかり備品を壊しちゃったんだよなぁ。明日、副会長が話があるって言ってたけど、まさかそのことじゃないよね……」
優しい先輩が怒る時
絆LV4で開放
Possible Endings
Scenario Script
Spots 1, Scenes 328, Choices 3, Endings 2
ふー……
後輩クン、なんで打たないの? いい牌引いて選択迫られてるとか?
……卓の上で小人が踊ってるような……。
え……ヤバいキノコでも食べたとか?
いや、単に昨日あんまり眠れなかったせいで、頭がぼーっとしてるだけ……。
私は萬字の混一色になっている自分の手を見た。まずい、頭が働かない、何を切ればいいのか全然わからないぞ……。
受け入れの広さを考えると、これか……?
奈々先輩いますかー!?
唐突に響き渡った声にビクっとなり、手をかけていた牌をポロリとこぼしてしまった。頭のもやが吹っ飛んだのはいいけど、これ選択ミスったな……。
まぁいいや、捨てた牌は取り戻せない。なかったことにしよう。
奈々先輩、ここにいたんですね!
愛ちゃん、どうしたの? 後輩クン、紹介するね。この子はウチの後輩チャン。
こんにちは。
奈々先輩がよく言ってる「後輩クン」って、あなただったんですね。初めまして、これから仲良くしましょうね!!
愛ちゃんは私の手を掴んでブンブンと上下に振った。少し腕を痛めるほど情熱的に。
何か頼み事?
さすが先輩、ご名答です。でも急ぎじゃないので、終わってからでいいですよ。その辺に座ってますね。
……後輩チャン、あなたにそっくりだね。
アハハ、ウチみたいに燃えるように情熱的ってこと?
えっと……
率直な評価を言う
確かにすごくフレンドリーで、白石さんみたいに誰にでも馴れ馴れしく接することが出来る人みたいだね。
それ悪口じゃない? まぁいいや、褒め言葉として受け取っとくよ。
でもおだてても無駄だよ、この牌はウチがもらいまーす! ロン! 平和のみ~。
こうして私の親番がノミ手に流されてしまった。でも、この白石さんの手、私の三萬を見逃して、四五六の三色を狙うことも出来たはずなんだよな。まだ四巡目だったし。
安目であがってもらって、安全に次局に進むのもアリだよね。さすが奈々先輩は優しいなあ、ありがとう。
ふふん、わかればいいのだよ。
あわてんぼうなとこがそっくりだね。
あわてんぼうだってー!? 最近の後輩クン、どんどん可愛げなくなってってるよ。
じゃあ尚更、その三萬であがるわけにはいかないね。じゃないと、「あわてんぼう」になっちゃうもんね?
え? ロンしないなんて、奈々先輩って優しいんだね、ありがとう。
来たー! ツモ、高目跳満!
何がありがとうだよ……さっき私の三萬をロンしなかったのは、四五六の三色狙いだったからだな……?
それだけじゃない。出来る限り大きな役に仕上げて私の軽口に仕返ししようと企み、わざわざ幺九牌の雀頭を切ってタンヤオまでつけてきた。
親ハネ……激痛だ……
半荘が終わり、私と白石さんが席を立つと、申し訳なさそうな顔をした会館のおかみさんに呼び止められた。
人が足りてない卓に入るつもりだったんだけど、急用で出なきゃいけなくなっちゃってねぇ。
悪いんだけど、店番と代打ちを分担してやってくれないかい? 今、他に馴染みのお客さんがいないもんでさ……頼むよ。
いいですよー。じゃあ……白石さんは店番しながら後輩チャンと話してて。代打ちは私がやるよ。
後輩クン、大丈夫? さっき、オーラスでツモ番の度にあくびしてたけど。
ま、何とかなるでしょ……おかみさんが戻ってくるまで守備寄りで打って、大役に放銃しなければいいんだし。
後輩チャンは白石さんに相談があって来たんでしょ? 待たせるのもよくないよ。
……先輩が代打ちした方がいいと思います。後輩クンさん、もう目が閉じかけてますよ? 私、待てますから。
後輩チャンの意見を聞き、白石さんは私の肩をポンと叩いた。
後輩チャンもこう言ってるんだし、キミはゆっくり休んでてよ。愛ちゃん、ごめんね、もうちょっと待ってて。
じゃあ頼んだよ。なるべく急いで戻るからね。
おかみさんを見送り、私はレジカウンター傍の椅子に座った。居眠りを防ぐべく、愛ちゃんと雑談でもしてみよう。
後輩チャンこと「愛ちゃん」は、中学の時から白石さんにたくさんお世話になっているそうで、当時から白石さんは親切な人だったと教えてくれた。
あちこちで人助けして、みんなから信頼されてる奈々先輩って、かっこよくないですか!?
うんうん……
私は先輩みたいにかっこいい人になりたいんです! それで、先輩を追って朝葉高校に入学して……あ、ごめんなさい、ちょっとテンションが上がりすぎちゃいました。
いいよ。誰かから必要とされる存在になるって、すごくかっこいいよね。
ですよね!? 奈々先輩の後輩同士、やっぱり話が合いますね、私達! 後輩クンは……あ、これは先輩専用の呼び方でした。なんてお呼びすればいいですか?
{var:player_nickname}でいいよ。
{var:player_nickname}さん、居眠りしたくないんだったら、スマホで友人戦しませんか?
あはは……麻雀で眠気覚ましするんだったら、やっぱり私が対局に行くべきだったね。
あっ、じゃあさ、君の段位戦を横で見てるよ。何切る問題だと思えば、眠気覚ましにもなるし。
会話のタネも尽きかけているし、気まずい雑談を続けるよりも、こっちの方がいいだろう。愛ちゃんも特に反論せず、すぐゲームを開いてマッチングを始めた。
……ん? 対局が始まったけど、愛ちゃんは同卓者のプロフィールを一人ずつ確認している。
プレイスタイルを確認してるの?
いえ、私はスタイルとかはよくわかんなくて……ただ、段位ポイントを確かめたいだけです。んー、この人はもうすぐ落ちそうですね……
段位ポイントか……降段ギリギリだと、いつもより掛かり気味に打つようになる人もいる。愛ちゃん、この点を考慮して作戦を練っているのかも。
ごめんねぇ! 銀行混んでて、時間かかっちゃった。待たせたね。
大丈夫ですよ、じゃあレジ交代しますね。
ふふっ、今度来たら場代サービスしたげるからね。
あはは、ありがとうございます。愛ちゃ……おっと。
白石さんの代打ちの様子を見に行こうよ、と言いかけたが、愛ちゃんの対局もオーラスに差し掛かっていたので、ひとまずこっちを見守ることにした。
二位と13000点差のトップ、四位の対面がリーチしている状況か。守りに専念すれば、このままの順位で終われるだろう。
……と思いきや、画面から目を離したほんの一瞬の間に、何を血迷ったのか危険牌を打った! ド派手なカットインが入り、手牌が展開される……愛ちゃんは、対面に倍満を放銃してしまった。
うわ……手が滑っちゃった。隣を切るつもりだったのに。
素直に北の暗刻を落とせば起こらなかったであろう誤操作だった。他家の攻めを恐れて、数巡前に切られていた数牌を先に処理しようと思ったんだな。
くやし~、でもこれで対面の人は降段せずに済むだろうし、これも一日一善ってやつかな。
ただいまー。ウチの可愛い後輩たち、楽しんでる?
ぼちぼちね。じゃあ私はこの辺でお暇するから、二人でゆっくり話しなよ。
すいません、その、あなたも一緒に聞いてくれませんか?
私も?
実は……週末、近くのショッピングモールで麻雀の交流大会が開催されるんですけど、今私とクラスメイトでチームを組んでて、あと二人足りないんです。
なるほど、それでウチにヘルプを出して、ついでに後輩クンにも参加してもらおうってことかな?
わ、私も?
その通りです! よく麻雀会館に出没するって奈々先輩から聞いたので……麻雀、上手いんですよね?
上手いかどうかは置いといて、なんでまた、私のこと一日中麻雀してばっかりのニートみたいに……
……違うの?
え、……本気で言ってる?
ふと、以前玖辻につけられた称号が懐かしくなった。なんだっけ、魂天神社の巫女の保護者、朝葉高校の多くの生徒達の親友、サーカス団「Soul」の筆頭外部団員……ダメだ長すぎる、以下略。
細かいことは気にしない気にしなーい。それで、後輩クンは週末空いてるの? ウチとチームで麻雀なんて、青春を謳歌する大チャンスだよ。
予定を聞いてくれて助かったよ、じゃないといよいよ本物の暇人だと思われるとこだった。ま、今週末は土日両方空いてるんだけどね……。愛ちゃん、時間と場所は?
愛ちゃんは詳細な日程を私達に教え、「よーし、メンバーが揃ったこと、クラスメイトに言ってきます!」と言い残し、バタバタと麻雀会館を出て行った。
白石さんリスペクトで、一瞬の暇も無駄にしない子だね。
アハハ、元気があってめっちゃいいじゃん! じゃあまた週末ね、後輩クン。当日はコンディション整えて来てね、今日みたいにぼーっとするのはナシだよ。
任せといて。じゃあまた試合で。
やっぱり白石さんは私のことわかっていないんだな。私は、麻雀の試合には全力を尽くすんだぞ。
時は過ぎて、試合当日。抜けるような青空が広がっているが、昨晩雨が降ったせいで家の前のシェアサイクルはびしょ濡れだ。やや出鼻をくじかれた気分だけど、まだ時間も早いし、歩いて行けば問題ない。
のんびり歩いてショッピングモールに向かうと、もう白石さんは到着していた。
おはよ、後輩クン。早いじゃん。
おはよう。でも白石さんの方が早いよ。
へへ、この先輩より早く着いておこうなんて、キミにはまだ早いよ。
待って待って、「早い」が渋滞してて文章題みたいになってるって。 ところで、白石さんは歩いてきたの? それとも走ってきた?
走ってきたよ。空気がおいしいし、運動しないともったいないから。
だと思った。なら、歩いてきた私も同レベルでしょ。
お、今日は引かないねぇ。でも、試合ならそういうメンタルでいる方がいいよ。うんうん、しっかりしてるね!
行こっ、こんなに天気がいい日だもん、優勝目指すしかないでしょ!
自信ありって感じ?
ふふん。今朝カーヴィさんの占い屋の前を通りがかったんだけど、「今日のあなたの運勢は爆ヅキです、何をしても上手くいくでしょう」って言われたんだ~。
えっ……あの人、いいことも言うんだ!? 私の時はいつも「女難の相が出ています」なんて言って、それにかこつけて怪しい開運グッズを売りつけようとしてくるのに!
怪しい開運グッズ? いつも「運命は絶対」って言ってる人が、そんなもの売りつけるわけなくない?
先月、「新しい事業を始めたの。お得意様の君になら、特別に『フォーチュンサポート』サービスをご案内しましょう」なんて言われたんだけど、白石さんは言われなかった?
言われたことないよー。最近だけでも七回は占ってもらったけど、一度もね。
つまり、私だけを狙ってカモろうとしてるってことだな……!
そろそろ時間だし、入ろっか。あんまり後輩チャン達を待たせても悪いし。
え? 二人とも着いてるの?
そうだよ。
珍しく早起き出来たのに、どうしてそんな日に限ってここまで徹底的に負けるんだ……
この日、私達のチームは、カーヴィさんの占い通り全員がツイていた。最初の二試合を終えた時点で、私たちの点数は他のチームを大幅に引き離してリードしていた。このまま行けば、本当に優勝出来るかも!
あっという間に、ベスト8を決める重要な局面を迎えた。大将の白石さんは、自分の試合が始まらないうちに何か食べておこうと、後輩を一人連れて買い出しに行った。副将の私ともう一人の後輩は、控え室に備えつけられたテレビで試合の中継を見ていた。
私は試合の様子を見て、思わず眉をしかめた。
ロンだ!
愛ちゃんの下家の男の子が、嬉しそうに点棒を受け取っている。愛ちゃんがその子に放銃するのは、これでもう三回目だ。
最初はスジを頼って放銃し、次は追っかけリーチで一発、そして今は安牌があったのに無理やり危険牌を押した。
男の子のチームは最初最下位だったのだが、この三回のあがりで三位に浮上した。まだ南一局であることを考えると、この半荘が終わる頃には二位もあり得なくはない。
私は各チームの点数をチェックしてみた。私は最初、自分達が大きくリードしていたから、油断してミスを連発したのだと思っていた。
しかし、男の子には何度も放銃しているのに、他の二人のリーチにはきっちり守っているのを見て、嫌な考えが頭を過ぎった。愛ちゃんは、不正をしているんじゃないか?
他の人に意見を聞こう
……性急に判断すべきじゃないよな。
同じ卓についた二位のチームのメンバーは、聖ティナ女子高校麻雀部の部員で、愛ちゃんは彼女を狙い撃ちしているようにも見える。先に厄介なチームを倒しておいて、あえて弱いチームを勝ち進ませようとしているのなら、優勝を狙うって意味では合理的……と言えなくもない……かな?
なになに、何を判断するの?
あ……白石さん、いつの間に戻ってきたの?
ついさっき。そんな深刻な顔しちゃって、何か気になることでも?
……今日勝ったら、どこでご飯食べようかなって考えてたんだ。
試合中に油断したら、逆転されちゃうよ~?
今朝「今日は超ツイてるんだって」って言ってたのは誰だっけ……?
まぁいいか。私と愛ちゃんは知り合って間もないんだし、悪い方向に捉えるのは失礼というものだろう。
その後も、私達のチームは最後まで幸運が続き、この交流大会で優勝した。
試合が終わり、愛ちゃんとクラスメイトはショッピングモールを回りたいということで、その場で解散になった。私と白石さんは、「エテルニテ」に新メニューのコーヒーを飲みに行くことにした。
ぐすっ……すっごく悔しい……
ん? あれは……
ショッピングモールを出ようとした時、ベスト8決定戦の時の対局相手が噴水のそばに立っているのが見えた。涙を滲ませている女子生徒は、まさに愛ちゃんが狙い撃ちした上家の雀士だった。
同卓者は私ではなかったが、つい目を逸らしてしまった。
……お祭り対局でも、やっぱり負けると悔しいよね。こういう時誰かが泣いているのを見ると、ウチも少し辛い。
でもウチらは正々堂々戦って勝ったんだから、キミも目を逸らさなくていいんだよ。敗者の涙に向き合うのも勝者の責任、でしょ?
正々堂々……
白石さんの言葉に、愛ちゃんの「不正プレイ」疑惑が思い起こされ、何とも言えない気持ちになった。
あっ、しかめっ面してる。何考えてるの? 後輩クン。
晩ごはんのことを考えてた、はもうナシだからね。賢い奈々先輩に、同じ手は通用しないんだから!
……わかった。あのね、これはただの憶測なんだけど……
私は、ベスト8決定戦の時の、愛ちゃんが取った不可解な行動について伝えた。もちろん、愛ちゃんの選択は戦術的にある程度合理的だろうという意見も添えて。
白石さんは「……そっか」とだけ言って、この話題はそれで終わった。そして、私達は当初計画していた通りカフェに向かった。
今回の新メニューも期待を裏切らない味わいだった。カフェインの強力な作用により、眠れぬ夜を過ごし、翌朝はまたぼーっとした頭で過ごす羽目になってしまった。
何日かして、私が町をぶらついていると、愛ちゃんとばったり会った。軽く挨拶しようとしたが、愛ちゃんは私だとわかるとムッとした表情になった。
余計なことを……
すれ違いざまに、そう言い放ったのが聞こえた。少し気になった私は、白石さんに何かあったのか電話で尋ねた。すると、試合の映像を見直して、直接愛ちゃんに不正をしたのか問いただし、言い争いになったことがわかった。
やっぱり、あの男の子が勝つように手を抜いてたんだ。確かに良くないやり方だったとは思うけど……私のせいで、二人の仲が悪くなっちゃったってことだよね。ごめん。
バカなこと言わないで。どんな理由があったとしても、試合には公平、公正な姿勢で臨むべきなんだから、キミが謝る必要はないよ。
まあでも、後輩クンの気が済まないってことなら、晩ごはんを奢ってくれてもいいよ~?
うん、そうしようか。今どこ……
言い終わらないうちに、背中を指で軽くつつかれた。
振り向くと、笑顔の白石さんがいた。
私と愛ちゃんは知り合って間もないんだし、そんな風に決めつけるのはよくない。まずは、愛ちゃんをよく知る人物に聞いてみよう。
ねぇ、愛ちゃんってさ、いつも麻雀する時に決まった相手の点数をコントロールしたりする?
コントロール? アハハ、あり得ないですよ、そこまで上級者じゃないですし。
いつもかなりぼんやりしてて、たまに大差でリードすることがあっても、最後には何故か大きい役に放銃しちゃうんです。さっきの放銃も、どう見てもあり得ないですよね。
最後……
愛ちゃん、前に会館でやってたネットの対局でも、オーラスでうっかり放銃していたんだよな。本当に全て偶然なのだろうか……?
たっだいまー! ん? 後輩クン、そんなに険しい顔してどうしたの?
直接白石さんに相談する
……愛ちゃんが少しミスしちゃったから、自分の時に出来るだけ点数を稼ごうって考えてたんだ。
ミス? あ、本当だ。何度も放銃したっぽいね……。
確証を得るまでは、いったん何も見てないことにしよう。この半荘が終わったら、適当に理由をつけて控え室を出て、戻ってくる愛ちゃんを捕まえて聞いてみよう。
ただの誤解だったらちゃんと謝ればいい。黙ったままでいて、この後の対局何か悪い影響が出るよりは、こうした方がいいと思う。
……いた。
控え室から出てすぐ、下家にいた男の子と話しながらこちらに歩いてくる愛ちゃんを見つけた。
姉ちゃん、すげー! あんなにたくさん点をくれてサンキュー、後でチームの奴らに自慢するっきゃないな! けど……あと二局で、僕達本当に決勝に進めるかなぁ。
安心して! 私が勝たせてあげる。そうすれば、お目当ての「おもちゃセット」が手に入るでしょ。
……嫌な場面に出くわした。この会話は、はっきりとした証拠になる。やっぱり、愛ちゃんは意図的に男の子に対して手を抜いていたのだ。
愛ちゃんは男の子に別れを告げると、私の視線に気づき、満面の笑みを浮かべながら手を振った。
{var:player_nickname}さん、わざわざ迎えに来てくれたんですか? ちょうど良かった、あなたに相談したいことがあって。
手加減しないかっていう相談なら、断らせてもらうよ。
私の顔色を見て思う所を察したらしく、愛ちゃんの笑顔が徐々に強張り出した。
あ、あはは……あのですね、あの子達、おもちゃセットが欲しいからって、やっとの思いでベスト8まで勝ち進んで来たんですよ。どうせ私達はかなりリードしてるんですし、人助けと思って勝たせてあげましょうよ。
ベスト8まで進出するのは誰にとっても簡単じゃないよ。勝ち上がりたいとあの子達が本当に思ってるんだったら、自分たちの実力で勝ってもらえばいいと思う。
何マジになってるんですか? これはただの交流大会、会場側だって単なる宣伝目的で開催してるんですよ。もしあの子達が賞品を手に入れられなくて、泣いて暴れるようなことにでもなったら、スタッフさん達も困っちゃうでしょう?
交流大会だってれっきとした試合だよ。それに私は、どんな試合でも大マジなんだ。とにかく、私は協力しない。
あっそう……ケチですね。こんなにリードしてるのに、弱い人を助けて何が悪いんですか?
私は喜んでフェアなケチになるよ。自ら弱者の立場に甘んじないと受けられない助けなんかいらない。少なくとも私はね。
それに、部外者の私はともかく、他のチームメイト……特にあなたの崇拝する白石先輩には相談したの?
ご心配なく。先輩達はきっと喜んで協力してくれるはずです。特に奈々先輩みたいな、親切さが服を着て歩いてるような人は、私の考えに賛同してくれると思います。
つまり、まだ相談してないんだね。
ゴチャゴチャとうるさいですね。私と先輩は中学からの付き合いなんです、私達の絆を疑うんですか!? 先輩はきっと賛成してくれます!
おやおや? 随分盛り上がってるね、何の話?
あ……先輩。
全然戻ってこないから、探しに来ちゃったじゃん。早くご飯にしよ、せっかく温めたお弁当が冷めちゃったらもったいないよ。
白石さんが来たので、議論も中断せざるを得なくなった。愛ちゃんは素知らぬ顔で控え室に戻っていく。白石さんはその背中をちらりと見て、私の背中を軽く叩いた。
後輩クンの腕前なら、点数を取り戻すのなんてちょちょいのちょいだよ。さっきの愛ちゃんのミスはなかったことにしよ。
それはどうかな、この後運気が落ちていったりして。
こういう時に辛気臭いことを言うなんて、可愛くないよっ! いい? 先輩が出来るって言ったら、本当に出来るんだよ! ほらほら、とりあえずご飯食べて、そしたら卓上で大暴れしておいでよ。
放銃のことで愛ちゃんに会いに行ったと誤解しているみたいだ。それなら、とりあえずそういうことにしておこう。後ろ指を指すような真似はしたくないし。
それに……いまいち自信が持てないし。白石さんは愛ちゃんのやり方に賛成するかもしれないし。付き合いの長さで言えば、確かに私は愛ちゃんより下だから……。
副将戦が始まった。今回の大会では、ベスト8以降は試合ごとに各チームの席順が固定される。そのため、上家には前回同様に聖ティナ女子高校麻雀部の部員が座り、下家には愛ちゃんと協力関係にある男の子のチームメイトが座った。
よし! 当たった! えっと、裏ドラが六枚だから……
数えなくていいよ、倍満だから……
上家の女子高生は声を掛けつつ、痛恨といった感じでぎゅっと目を閉じた。東場も終わりの頃、対面に追っかけリーチされた上に、そのまま対面に大きな放銃をしてしまうなんて、不幸としか言いようがない。
下家の子は無邪気な笑顔を見せた。今回のあがりで、子供チームは暫定二位に浮上した。
愛ちゃんが男の子に点をあげて、自分以外の三人の点差を均等にしていなければ、聖ティナ女子高校の生徒もこんなに焦って追い上げようとはしなかっただろう。
ツモ。1300-2600は1400-2700。
計算違いじゃないですか? リャンメン待ちなら、四十符ないですよね?
間違ってないよ。ここの四、五、六、六を四、五、六のメンツと捉えると、残った六萬が単騎待ちになるから。
卓外のことが原因で窮地に陥っていることには同情するけど、貰うべき点数はちゃんと貰っておく。かといってわざと子供チームを狙うこともしない。どの相手とも対等に戦うんだ。
まあ、もし私が愛ちゃんと同じ考えの持ち主だったら、そもそも愛ちゃんの行動に疑問を抱くことも無いしね……
みんな、お疲れさま! 後はウチに任せて!
白石さんが出て行くと、愛ちゃんがふんぞり返りながら得意げに笑った。
さっき、奈々先輩に私の考えを伝えたんです。ふふん、私言いましたよね? 先輩なら賛成してくれるって。
本当に白石さんがそうしようって言ったの?
奈々先輩、「なるほどね。大丈夫だよ、ウチは全力を尽くすから!」って言ったんです。だから、安心して先輩に任せておけばいいんですよ。
全力を尽くす、か……
……実はさっき、愛ちゃんの様子がちょっと変だった気がしてて……。
独断で決めつけるのも少し気が引けるので、思い切ってモヤモヤしたものを白石さんに伝えることにした。
そっか……じゃあ戻ったら、ウチからあの子に聞いてみるよ。
ずいぶん思い切りいいなあ。私の考えすぎかも、とか思わないの?
ウチはキミの人生の先輩だけど、麻雀のことで後輩クンにあれこれ偉そうに言う気は無いよ。ウチは、キミの判断を信じる。
後輩クンは先にご飯食べてて、中堅戦がもうすぐ終わるから。お腹いっぱいになれば、対局も思いっきり出来るってもんだよ。
お弁当を食べ終わる頃、ちょうど愛ちゃんが控え室に入ってきた。白石さんがいつさっきのことを尋ねるつもりなのかはわからないけど、気まずくなってきたので、トイレに行くと言って対局が始まるまで外でぶらぶらした。
副将戦では、上家の麻雀部員が倍満を放銃してしまったのがたたり、下家の子供チームが逆転して二位に上り詰めた。私はなかなかあがれなかったが、チームの順位を堅実に守った。
対局スペースを出ると、白石さんが出迎えてくれて、私が一番気になっていたことにズバッと答えてくれた。
あれね、どうやって聞こうかなーって悩んでたんだけど、結局愛ちゃんの方からあの子達に手加減してあげてって頼みに来たよ。子供チームを決勝まで勝たせてあげるって約束したからってさ。
やっぱり不正してたのか……でもなんで?
そう尋ねてから、自分は何をバカなこと聞いてるんだろう、と思った。理由なんて重要じゃない。いかなる理由があろうと不正は不正だ。
子供チームはベスト4の景品の「おもちゃセット」を欲しがってて、ウチらは大幅にリードしてるから、手加減してあげてもいいんじゃないかーって言ってたよ。
……白石さんはどうするつもりなの?
あっ、また険しい顔。安心して、全力を尽くすからさ。
可愛い後輩でいたいなら、難しいことは先輩に任せるべきだよ。控え室に戻って、いい子で先輩を応援しててよ、さあさあ。
白石さんは私に背を向けて、ひらひらと手を振ってみせ、廊下の向こうに消えた。
「全力を尽くす」とはいったい……彼女に聞こうと思ったが、結局何も言えなかった。私、白石さんのこと、ほとんど何も知らないんだな。
白石さんが、私の望む答えを返してくれるかどうか、自信が持てなかった。
おかえりなさい、さっきの対局はなかなか良かったですね。あまりにも早く出て行っちゃったので、協力してもらえなかったのが残念でしたけど。詳細は奈々先輩から聞いてますよね?
うん……
愛ちゃんと目を合わせることなく、テレビの前に座った。ちょうど白石さんが卓につき、試合が始まるところだった。
全力を尽くす、か……
リーチ。
白石さんは三巡目にして絶好の両面待ちに仕上げ、リーチ宣言をした。巡目からして手掛かりが非常に少ないし、他の選手は真っ直ぐには行きづらいだろうな。
二巡が過ぎても、白石さんの河には有効な手掛かりが出てこない。上家の女子麻雀部員は汗を拭い、悩んだ末に目を閉じて七索を打った。
自分の親番にしがみつきたいがための、軽率な打牌だった。もし白石さんの手が満貫以上だったら、それまでコツコツ積み重ねた点数が無駄になる。なんてこった……。
麻雀部員は、これさえ通ればとでも思っているのか、ブツブツと何事か呟いていた。震える指をゆっくりと牌から離し、そわそわしながら白石さんの方をちらりと見る。すると、白石さんが満面の笑みを浮かべていたため、上家の顔はみるみる青ざめた。しかし、白石さんが続けて牌を引くと、長いため息をついた。
わ……先輩、やり過ぎですよ。なんでわざと驚かせたんでしょう? あの人、放銃したと思ったでしょうね。
本当に運がいいですね、浮いた牌が当たらないなんて。でもそろそろ守備に入るんじゃないですか? 攻め続けて打ってくれたら、あの子たちの決勝進出が決まるので一番いいんですけどね!
まるで下家は絶対放銃しないみたいな言い方だな……
下家の子も守るつもりはないらしく、白石さんのリーチを完全に無視して危険牌を次々と打牌した。下家の手にはちょうど白石さんの当たり牌である五萬があったが、四、五、五、六と繋がっている状況なので、しばらくは出ないだろう。
麻雀部員はその後も二回続けて危険牌を押し、余分な牌を処理した。どことなく自暴自棄のような雰囲気が感じられる。そして下家の子供チームはというと、終始自信たっぷりで恐れを知らず、ひたすらあがりに向かってどんな牌でも捨てていった。
唯一堅実に守備に徹している対面は、左右を見て首を傾げつつ現物を切っていた。この時、彼の頭の中は疑問符でいっぱいだっただろう。
……あ、テンパイした。
勇者への褒美のように有効牌が舞い込み、上家は白石さんと同じ、五、八萬の両面待ちでテンパイした。しかしリーチはしない。打点を上げるため、手替わりを待っているのだろう。
しかし、間もなく下家もテンパイした。
リーチ!
パァン! 下家は点棒を出し、五萬を強打した。麻雀部員はすかさず「ロン」と叫び、手牌を開けた。
あら残念。でもたったの三飜ですし、さっきの倍満を取り返すにはまだまだですよ。
ウチも。
えっ……
大将の少年はあっけにとられて白石さんの手を見た。私の隣にいた愛ちゃんも、信じられないという顔をしていた。
な、なにこれ……?
ごめん、ダブロンだよ。どれどれ……ん? 裏ドラ二枚で跳満だね。
親の三飜に子の跳満が乗り、本場数も加えると、下家の子供チームはさっきの倍満で得た点数分をまるまる放出してしまった。
それからは……いや、きっと最初から、白石さんは子供相手に手加減する気は一切なかった。彼女はいつもの対局と同じように、ただひたすらに目の前の大将戦に臨んでいた。
助っ人を失い、慌てた下家がミスを連発すると、上家の麻雀部はゆっくりと優勢を取り戻し……最後にはすっかりペースを取り戻して、準決勝を突破した。
ははっ、「全力を尽くす」ってこういうことか。うん、いつもの白石さんと全く変わらないや。
なんで……こんなはずじゃ……
約束が違うじゃないですか! 奈々先輩、なんで約束を破ったんですか!?
白石さんが控え室に戻ると、愛ちゃんは息巻いて問い詰めた。
ん? 言ったでしょ? 「全力を尽くす」って。
先輩、私の言いたいことが伝わってなかったんですよね。私がお願いしたのは……
はっきり言われたいのかな? 白石さんは、最初からあなたに協力するつもりはなかったんだよ。
私は奈々先輩と話してるんです、部外者は首を突っ込まないでください!
いや、後輩クンの言う通りだよ。勝ちたいなら全力を尽くす。手加減なんてする訳ないよ。
……わかりません。ただの交流大会なのに、なんでそんなに真剣になるんですか? 勝ちたいにしても、私達は大差でリードしてたじゃないですか! あの跳満をあがる必要なんてなかったはずです!
あの子達は、ただ「おもちゃセット」が欲しかっただけ。奈々先輩は「弱い人は助けなくちゃ」って言ってるのに、どうして……
ちょい待ち、確かにウチは人助けが好きだけど、「弱い人を助ける」なんて言った覚えは無いなぁ……ウチはごくごくフツーの人だし、そんなかっこいい台詞は本物のヒーローに言わせておけばいいよ。
優勝出来たら、子供達が欲しがってる「おもちゃセット」を喜んであげるよ。でもさ、せっかく同卓することになったんだったら、本気で試合を楽しまないともったいないよ。
……あの子達は楽しんでなんかないと思います。決勝に進める希望がようやく見えてきた所だったのに、最後に賞品だけ貰って、本当に喜ぶでしょうか?
試合に負けたら、普通の人ならそりゃ嬉しくはないだろうね。
あの子達も、決勝に進めなくて悔しいかもしれないけど、そういう悔しさがあるからこそ、人は強くなりたいと思えるものでしょ? ウチは、この賞品を譲ることで、「次はもっと上手くやれるよ」って励ましてあげたいんだ。あの子達が弱いから、可哀想だからって、決勝に進むチャンスを恵んであげるんじゃなくてね。
わ、私はそんなつもりじゃ……
そう固くならないで。そんなつもりじゃないことはわかってる。でもね、昔キミを助けたのが、ウチがキミを憐れんだから、ウチは自己満足が大好きなナルシストなんだと思ってるんだったら、傷ついちゃうな~。
親切な気持ちは大事だけど、試合に真剣に向き合って、相手をリスペクトするのも同じくらい大事なことだよ。よし、この件はこれで終わり。きっちり準備して、優勝して「おもちゃセット」をあの子たちにプレゼントしよう!
あ、終わりじゃなかった、もう一つ。愛ちゃん、{var:player_nickname}に謝って。
はぁ!? なんで私が謝らなきゃいけないんですか?
さっき自分が言ったこと、よく思い出して。{var:player_nickname}はウチらのチームメイトってだけじゃなくて、ウチが認めた後輩クンなんだよ。部外者じゃない。
さっきはちょっと気持ちが高ぶったんだと思うけど、失礼なことを言ったら謝らないとね。
先輩の言うことはもっともだと思うよ、愛ちゃん、謝ったら?
せっかくチームになったんだし、ほら、握手で仲直りして。
二人まで、先輩の味方をするの!? まったく……わ、わかったわよ!
愛ちゃんは頬を膨らませながら私の前に来て、謝罪した。表面上は謝っているものの、顔にははっきり「不服」と書かれていた。
えっと……謝る必要なんてないよ。白石さんの言う通り、この件はこれで終わりにしよう。
だ~め。それはそれ、これはこれ。
わ、わかったよ……じゃあ、謝るんだったら早くして……
ハァ……ごめんなさい! 言ーいー過ーぎーまーしーたー!!
うんうん、元気があってよろしい!
元気ありすぎて鼓膜破れたよ……はぁ、そんなに気乗りしないなら、無理に謝らなくてもいいのに。
ダメです。奈々先輩に謝れって言われたら、当然謝りますよ。それに言い過ぎたと思ってるのは本当なので。
じゃあその不満そうな態度は何なの?
だって……奈々先輩、あなたのこと「ウチが認めた後輩クン」って言ったんですもん。わ……私が先だったのに! 先に先輩と知り合ったのは私だし、先輩を一番尊敬してるのも私なのに、先輩は私のことを「認めた後輩」って言ってくれないんですよ、これって不公平じゃありませんか!?
なんで試合もそのくらい真剣にやらなかったんだ……ちょ、ちょっと、胸ぐら掴むのはやめて! 白石さん、君が原因なんだから、早く来てこの場を収め……あれ? 白石さんは?
先輩は「二人のアオハルコミュニケーションを邪魔したくないし、試合後に賞品を子供達にプレゼントするための相談してくるね~」って言ってましたよ。
くそう……適当発言で元凶を生み出した奴を逃がした……!
決勝が始まるまで、愛ちゃんの悲哀と怨恨がこもったじっとりとした眼差しと、悔しげにつぶやき続ける怨嗟の声に耐えることを余儀なくされた。
本当にくれるの!? ありがとう、お姉ちゃん!
へへっ、今度チャンスがあったらまた一緒に麻雀しようね。
うん! 次は僕たちが勝つよ!
決勝が終わり、優勝賞品と三位賞品の「おもちゃセット」を交換してもらってから、約束通り子供チームにプレゼントした。
二人のメンバーは用事があるのでと先に帰り、会場には私と白石さん、そして愛ちゃんが残った。
……あの子たち、嬉しそうでしたね。奈々先輩を見つめる眼差し、まるでヒーローを見てるみたいでした。
決勝に進めなかったら、落ち込んで、麻雀を嫌いになっちゃうかもって心配してたんですが、考えすぎだったんでしょうか。
そうなる可能性もあったけど、それでも白石さんは自分の選択を貫いて、誰が相手とも真剣に向き合ったと思うよ。
ふん……今回はあなたの勝ちです。
勝ち? 何の勝負?
悔しいですが、私はまだ奈々先輩のことをよく理解出来ていないみたいです。実際、あなたのように先輩と同じ選択を下せませんでしたし。だから、あなたの勝ちです。
私はやや複雑な気持ちになった。私自身、ついさっきまで、白石さんは愛ちゃんの考え方を支持するかもしれないと思っていた。そんな私が、本当に愛ちゃんより白石さんのことをわかってると言えるだろうか?
……まあいいや、こういう辛気臭いことはもう考えないようにしよう。少なくとも、私は今日で、より彼女のことを知れたのだから。
でも、いつか私も、奈々先輩に「愛ちゃんはウチの認めた後輩だよ」って言わせますし、負けは認めませんから! じゃあ……失礼します。
一緒に行かないの?
はい、これからどうやって人助けをしていくか、もう一度よく考えたいんです……
白石さんが戻って来る頃にはもう、愛ちゃんは立ち去ってしまっていた。先に帰った理由を聞いた白石さんは、手を頭の後ろで組み、苦笑した。
やっぱり真面目だねぇ、じゃあ邪魔しないでおこっと。これからどうする? 後輩クン。
もうすぐ暗くなるし、先にご飯にしようか。
いいアイデアだね! あ~、察しのいい後輩が、自分から、一日頑張って疲れた先輩にタピオカミルクティー奢ってくれたらもっと最高なんだけどな~。
はいはい、奇遇だね。ちょうどここに察しのいい後輩がいるよ。
よーし、ぼーっと突っ立ってないで、早く行こっ。
トッピングたっぷりの甘いタピオカミルクティーは、確かに疲れ切った体を癒すのにぴったりだった。
そうだ、言い忘れてた。
ん?
今日はすごくかっこよかったよ、先輩。
へへ、当然でしょ!
走れ!白石奈々
絆LV5で開放
Possible Endings
Scenario Script
Spots 1, Scenes 343, Choices 2, Endings 2
物事には、突然ものすごい勢いで訪れるものもある。例えば、嵐のような恋とか……
どいてどいてどいて! どいてーーー!!! うわ~~!{var:Shake}
……今、質量を持った旋風のごとく、物理ダメージを与えてきた白石奈々とか。
いっ……た~~……
後輩クン? ごめん、大丈夫? ほら、ウチが起こしてあげる、ゆっくりでいいからね。
頭にぶつかっちゃったみたいだけど、もしかしてすごく痛かった……? あ、いや、こういう時はまず、意識がはっきりしてるか確かめなきゃいけないんだっけ……ねえねえ、ほら、ウチの指を見て。これ何本?
一本。大丈夫、ちょっと痛いけど、あのくらいじゃ脳まではやられないよ。
頭より、お尻の方が心配かも。尻もちをついた道路は、君の頭よりず~っと硬いからね。
ふ~……そんな冗談を言えるなら大丈夫そうだね。うへへ、お尻が痛いなら先輩がさすってあげよっか。
ちょちょちょ、何を本当に触ろうとしてるの……仮にも「ピチピチの女子高生」なんだから、下品なおじさんみたいに笑うのもダメだって。
ところで、そんなに慌ててどこに向かってたの?
はっ……そうだ、急いで逃げなきゃなんだった! 立ち話してる場合じゃない! 今度、お詫びにミルクティー奢るから!
逃げる? つまり、白石さんは誰かから逃げてるのか? 好奇心をそそられる発言だなあ……。
ここまで慌てているんだから、邪魔しない方が良さそうだ。この好奇心はいったんしまっておこう。事態が落ち着いてから詳しいことを聞くのでも遅くはないはずだ。
町ブラに戻ろうかと思ったが、再び見知った人影……ゆずの姿が視界に飛び込んで来た。ゆずは一頭のおおk……じゃないな、確かアラスカン・マラミュートとかいう犬種のワンちゃんを連れていて、そいつがすごい剣幕で私の方へ突っ込ん出来た。口に何かくわえている様子と、曇りのない……少しバカっぽい眼差しがなければ、狼と見間違える所だった。
お、おはよう、ゆず。
キュル? {var:player_nickname}か、おはよう! 正義の魔女は今忙しいのだ、失礼するぞ!
う、うん。今日はみんな忙しいんだな。……ん? 待てよ。
白石さんが逃げていった所に、ゆずが犬を連れて走ってきた。まるで警察が容疑者を追っているかのようだ。ゆずは白石さんを追っているのかも?
追いかけて聞いてみよう。このモヤモヤを解消しなければ、どの道ゆっくり散歩なんて出来ないし。
ゆず達は、「ビュン」という音とともに姿が見えなくなった白石さんほど足が速くはなかったので、少し頑張って走るだけでリズミカルに揺れる二本の大きなしっぽに追い付くことが出来た。
ゆずが急いでるのは、白石さんを追ってるから?
キュルル!? なんで知ってるのだ?
ふふん、私は賢いからね。まあ、その理由を推測出来るほど賢くはないんだけど。正義の魔女に追われるほど悪いことをしたとか?
違うのだ。ゆずはただ、奈々の弱点を克服出来るよう特訓しようと思っただけなのだ。
弱点?
この前、副会長の指示で、みんなでグラウンド掃除のお手伝いをした時にな……
お手伝い? ペナルティじゃなくて?
キュル!? ち……違うのだ! とにかく、その時、みんなで自分が怖いものについて話したんだが、何も恐れるものなどないように見える奈々が、犬が怖いと言っていたのだ。意外だろ?
前に、奈々がゆずの弱点を克服しようと色々試してくれたことがあってな。失敗に終わってしまったが、力を尽くしてくれた奈々にこの正義の魔女は胸を打たれたのだ。今回は、その恩返しをするつもりなのだ。
えーと……このワンちゃんに協力してもらって、白石さんに恩返しするつもり、ってこと?
キュルルゥ……その通りなのだ。こいつは最近、友から預かったアラスカン・マラミュート。奈々が犬嫌いを克服するのに最適な生き物なのだ。一緒に出掛けると言って誘い出して、犬と仲良くなってもらう計画だったのだ。
で、白石さんが犬を見るなり驚いて逃げちゃって、犬を連れて後を追ってる、ってこと?
不本意ではあるが、事実としてはそうなるのだ、キュルルゥ……
そういうことか。「ショック療法のやり過ぎは良くないよ」と言いかけて、前に見せてもらった白石さんの「目安箱」の記録で、ゆずも似たような目に遭ったって書いてあったことを思い出した。ちょっと非情かもしれないけど、これ自業自得だよな、と思った。
犬と一緒に遊ぶにしても、いきなりアラスカン・マラミュートはちょっと怖いんじゃないかな。私でも大きな犬が走って来てびっくりしたもん、白石さんはなおさらだと思うよ。
もう少し小さくて、温厚な性格の、ペット向きの犬にしてみたら? そうすればショック療法の成功率も上がるかも。
{var:player_nickname}は一つ誤解してるようだな。アラスカン・マラミュートは確かにすごく大きい犬だが、その見た目とは裏腹に、とても人懐っこい性格をしてるのだ。
人……懐っこい?
……
ヒッ! この子、私を睨んだ? もしかして怒らせちゃったかな……
キュルルゥ、人懐っこいと言っただろ? {var:player_nickname}は疑り深い奴だな。信じられないなら、こいつの口に手を突っ込んでみるといい。こいつはただ口を開けるだけで、絶対噛まないからな!
……そうだね。ヒーリのモヒートも、怖そうな見た目に反して良い奴だし。見た目だけで疑うのもね……そうだ、この子の名前は?
オリオだ。
ごめんね、オリオ。外見だけで人、いや犬を判断するなんて、失礼なことをしたよ。
オリオは私の話を理解しているかのように、首をかしげて純粋な目で私を見た。おお、この子の可愛さが少しわかったかも。
しかし当たり前ながら、口に手を突っ込むなんて出来なかった。人間は、頭ではわかっていても、恐怖心をなかなか克服出来ない厄介な生き物なのだ。
そういえば、オリオがくわえてるのってシュシュだよね? なんだか見覚えが……
キュルル、話してたらペースが落ちてしまったな。奈々が逃げた方向もわからなくなってしまったのだ。
オリオ、本当にこっちなのか?
オリオは足を止め、地面の匂いを嗅ぐと、右の方を向いて「ウウー」と低く鳴きながらせわしなくしっぽを振り、ゆずに早くついてくるよう合図した。
ゆずはこのまま後を追うぞ。他に用がないなら、これで失礼するのだ。
待って、私も一緒に白石さんを追うよ。
キュル? なぜだ?
そんなの決まってる、一飜市の正義の魔女が誰かの弱点を克服させようと頑張ってるんだ、善良な市民として正義に尽くすのは当然だよ!
一見真っ当そうに聞こえる理由だけど、言うまでもなくこれは口実だ。ついて行きたい本当の理由は、普段先輩として振る舞っている白石さんが、苦手な動物と対峙した時にどんな風に慌てふためくのか見てみたいという野次馬根性だった。
そして、もう一つの理由は、その先輩が私にとって大切な先輩だからだ。単身であちこち逃げ回るの白石さんを黙って見てるなんて、私には出来ない。追い詰められて気を失った時は、おぶって帰る人が必要だ。
私達は、オリオの嗅覚を頼りに町中を歩き回り、白石さんの行方を追った。その間、より有力な手掛かりを掴むべく、道ゆく人達にも聞き込みをした。
きんのかみの、ポニーテールのおねーちゃん? みた! すっごくいいひとだった!
さっき、わたしのふうせんが、きにひっかかっちゃったの。それでないてたら、えいっ! ってうえまでとびあがって、とってくれたの!
……とびあがって?
私の目に狂いがなければ、一番下の枝でも優に4メートルを超えているんだけど。
キュル!? 奈々のジャンプ力はそんなにすごいのか? あんな高さまで跳ぶなんて。
大げさに言ってるんでしょ。4メートルも跳び上がったとしたら、もう「朝葉高校のスーパーヒーロー」だよ? そんな人いるはずないよ、ゲームの世界じゃあるまいし。
……いない、よね?
そのお姉ちゃん、君の風船を取ってあげてからどこに行ったかわかる?
わたしのいうことをしんじてくれないなら、おしえてあーげない! ふん!
……すまない。「朝葉高校のスーパーヒーロー」の正体を隠したくて、信じないフリをしていた。出来るだけ早く彼女に会って、ピンチを解決してもらわねばならないんだ。君も協力してくれないか!
お、おねーちゃん、ほんとにスーパーヒーローなの!? あのね、あっちにいったよ、すぐおいかけて!
正義への協力、感謝する! ゆず、行こう。
キュルルゥ……{var:player_nickname}が、平然と子供に嘘をつくとはな。ゆずの前で悪さをする奴はみーんなお仕置きなのだ!
ストーーーップ! 先を急ぐんじゃなかったの!? ギャ~……
金髪のポニテ女子? あぁ、さっき僕を助けてくれた子だな!
あの子すごいな! うっかり手すりにぶつかって、配達中の荷物が人に当たりそうだったんだけど、あの子が素早く二回キックを入れて、しまいにはダンクで荷物を全部カートに戻してくれたんだ。
それに、力加減も絶妙で、回収した荷物はどこもへこんでなかったんだ。あんなに繊細なコントロールが出来るってことは、相当なやり手と見た! 格闘漫画を山ほど読んできた僕の目に狂いは無いよ!
あ、はい、すごいですね。それで、どっちに行ったか見ましたか?
お礼を言おうと振り返ったら、遠くに走って行っちゃったよ。あっちの方だったかな。まさに「疾きこと風の如く」って感じだった。さすがやり手。
{var:player_nickname}、もしかしたら「朝葉高校のスーパーヒーロー」は本当にいるのかもしれないぞ。
適当につけた称号だし、実在するわけないよ……行こう、ちょくちょく立ち止まって人助けしてるみたいだから、きっとすぐ追いつけるよ。
はぁ、金髪で……あんだって?
ポニー……えっと、後ろで髪を一つにまとめてる子なんです、見ませんでしたか?
あぁ、はいはい、金髪の……金髪のどんな子だって?
……あ、もう大丈夫です。ところでおばあさん、しばらくここで立ち止まってますけど、何かあったんですか?
ふぇふぇ……心配してくれたのかい、ありがとねえ。いやね、ちょっと不思議なことが起きて。
さっき、道の向こうからその標識を見てたら、金色の旋風にさらわれて、気づいたらここにいたんだよ。
キュル? 金色の旋風……まさか、戒律を破りしはぐれ魔法使いか!?
たぶん、足を悪くしたおばあさんが道路を渡るのを心配した人がいただけだと思うよ。
あぁ、女の子の「おばあちゃん、一緒に道路を渡ろうね」って言う声が聞こえたねぇ。ふぇっふぇっ……若いのは本当に歩くのが速いねぇ、顔もよく見えなかったわい……
そうだったんですか。おばあさんをここまで連れてきた人が誰か、大体わかりました。標識の所まで一緒に戻りましょうか。
おばあさんを落ち着かせて、私達は引き続きオリオに白石さんの痕跡を探させた。
クーン……
オリオ、ちょっと疲れて来たみたいだね。もうずいぶん追ってるし、少し休もうか。
わかったのだ。キュルルゥ……アラスカン・マラミュートは体力がある犬種のはずだが、追いつく前にオリオの方がバテるとはな。
あのさ、白石さんは本気で逃げる気があるのかな。人助けしながら私たちを振り切るなんて、どんだけ速いんだ。
逃げている時もわざわざ人助けするなんて、ここまで親切だと、素晴らしいと思いつつ突っ込みたくもなる。白石さんほど親切な人は他にいないだろう。
……よし、充分休めたな。引き続き追うぞ。
もういいんじゃない? 白石さんの体力相手じゃ、私たちが追いつく前にオリオが倒れちゃうかもしれないよ。
諦めるのはまだ早いぞ。オリオも奈々に大事な用があると言っているのだ。
大事な用……? わかった、じゃあ白石さんに追いつけるか、もう一度試してみよう。
……あれ、このまま道なりに進んでいくと朝葉高校に着くな。白石さん、学校に隠れてたりして。
オリオに導かれ、読み通り朝葉高校に着いた。私達は校門をくぐり、グラウンドを抜け、校舎へ入り、最後には廊下の突き当たりのドアの前まで来た。
ワウッ!
オリオが興奮してグルグル回ってる、白石さんはこの中にいるのかも。
ここまで来ればもう逃げ場はない、突撃だ。
待って。白石さんがわざわざ逃げ場のない所に隠れると思う? ほんの親切心で忠告しとくけど、まずここがどんな場所か見た方がいいんじゃないかな。
キュル!? せ、生徒会室……{var:Shake}
週末だけど、如月くんが中で仕事してるかもよ。この前、週末に園芸部を手伝いに来た時も会ったし。
確か、朝葉高校の校則だと、特別な場合を除き、ペット同伴は不可……でしょ?
そ、そうなのだ、キュルルゥ……
まあいないかもしれないし、入ってみよっか?
や、やめるのだ~! 生徒たるもの、校則は守らねばならないのだ。奈々を追うことに集中するあまり、うっかり忘れてたのだ。すぐに出て行こう、オリオも行くぞ!
ゆずがリードを引いたが、オリオはここを動く気はないようで、ゆずの足元にすり寄り、口にくわえたシュシュを振った。
キュルル? う、うむ……よし。わかったのだ。
オリオはなんて?
オリオは、これをおまえに預けたい、そして、これを奈々に返して欲しいと言っている。これこそ、こいつが奈々を追い続けてた理由だったのだ。
ゆずとオリオと別れ、生徒会室に入った。副会長に何て言い訳しようか考えていたが、幸いにも、中には事務机の後ろでブルブルと震えている白石さんしかいなかった。
や、先輩。追いかけっこは楽しかった?
ゆずちゃん来てない? ……ふ~~。キミって薄情だよね! ウチの逃走を助けるどころか、ゆずちゃんと一緒に追ってくるなんて!
白石さんが心配でついて来たんだよ、速すぎて追いつけなかったけどね。それに、私が止めてなかったら、今頃ゆずがここに突入して、アラスカン・マラミュートとの触れ合いタイムが始まってたんじゃないかな。
はぁ……自業自得だ。この前、ムキになってゆずちゃんに弱点を克服させようとしたから、怒らせちゃったんだ。
ゆずはそんなに狭量な子じゃないよ。あの子は単に、弱点を克服してもらおうと思っただけなんだ。白石さんがやろうとしたようにね。ほら、これ、あなたのでしょ?
あれ? ウチの予備のシュシュだ。これ、どこで拾ったの?
あのアラスカン・マラミュートが拾ってくれたんだよ。あの子……オリオは、ただこれをあなたに返したくて追いかけてたんだ。
あぁ……そうなんだ。ウチはてっきり、ウチをからかうつもりで延々追いかけてきてるんだと思ってたよ。誤解だったなんて、悪いことしちゃったな……
後輩クン、ウチの代わりにゆずちゃんとオリオにお礼を言っておいてくれる? 本当は直接言いたいけど……はぁ、ウチってダメだなぁ……
そんなこと言わないで。犬嫌いは短期間で解決出来る問題じゃないしさ。恐怖の対象にお礼を言おうと思っただけでも、すごい進歩だと思うよ。
それに、今は便利な時代だし、面と向かってお礼を言うだけなら、物理的に対面する以外にも方法はあるよ。科学技術の進歩に感謝しないとね。
私はスマホを取り出し、ゆずにビデオ通話をかけた。すぐに繋がった。
{var:player_nickname}、どうしたのだ?
今、白石さんにシュシュを返したよ。彼女があなたとオリオにお礼を言いたいみたいでさ、まだオリオも近くにいる?
さっき遊びに行ったとこだ、呼び戻すから少し待つのだ。オリオー!
ワオーンッ!
オリオの元気いっぱいな声が画面越しに聞こえてきた。白石さんはカメラに近づいてくるオリオを見ても怖がる素振りを見せない。どうやら、犬が怖いという弱点も克服出来ないわけではなさそうだ。
ウチのシュシュを届けてくれてありがとうね、オリオ。
ワウッ!
ゆずちゃん、今日は時間取らせちゃってごめんね。ウチの弱点克服を手伝ってくれて嬉しいよ。でも……犬とちゃんと遊べるようになるにはまだ時間がかかりそう。
いいのだ、怖いものは怖いからな。しかし、ゆずは諦めないぞ! 続けていけば、奈々はきっと弱点を克服出来るのだ。奈々だって、ゆずの弱点克服を手伝ってくれているだろう? キュルルゥ! 一緒に頑張るのだ!
う、うん……
こうして画面越しに見てると、オリオってめっちゃ可愛いね。今日はウチのために一日中走り回って、ホント大変だったよね。
……うん、次はキミの頭をナデナデ出来るように、また頑張ってみるよ、オリオ。
ワオンッ!
約束が出来たね。次は私もそばで見てるよ。もし逃げようとしたら、全力で止めてあげるからね、フフン。
えー!? こういう時は先輩を守るために果敢に立ち向かうとこじゃない!? は~あ、ほんと薄情な後輩クンだよ……
何があったの? 随分慌ててるみたいだけど、手伝えることはない?
えーと……ちょっと複雑な状況で、説明が難しいんだよね。
キュルルゥ! 目標発見!
うわっ! もう追いついてきた!!{var:Shake}
背後からゆずの声が聞こえてくると、白石さんは身震いして逃げ出した。何か面白いことが起きてるなと察した私は、白石さんの後を追った。
どういう状況? ゆずに追われるような悪いことでもしたの?
ウチはなんにもしてない! あと、ゆずちゃんから逃げてるんじゃなくて、ゆずちゃんが連れてる犬から逃げてるの!
たった犬一匹にそんなに慌ててるの? ……うわっ!!
振り返ると、口に何かをくわえた大きな犬、えっと、犬種としてはアラスカン・マラミュートがゆずを引っ張り、猛然と私たちを追って来ていた。通りを歩いていた通行人たちはその猛烈な勢いに怯え、きっちり両端に避けて道を譲った。
……ワウッ!
前言撤回! こんなの見たら誰でも逃げるよ!!
でしょ!?
はぁ……はぁ……ありとあらゆるコーナーで差をつけまくって、ようやく振り切れたね。
ごめんね、後輩クン。巻き込んじゃって。
大丈夫、私は好奇心でついて来ただけだから。ここまで一緒に逃げたんだし、何があったか話してくれるよね?
実はね、この前ゆずちゃんや他の子たちと話してた時、犬が苦手だってみんなに話したの。
そうしたら今日、ゆずちゃんと待ち合わせしてたら、ゆずちゃんがあのでっかい犬を連れて来たの。ウチと一緒に遊んで、ショック療法でウチの弱点克服を手伝ってあげるって。
ショック療法か……理屈はわかるけど、いきなり犬恐怖症の人にアラスカン・マラミュートをぶつけるなんて、いくらなんでも刺激が強すぎるんじゃないかな。
違うよ後輩クン。大型犬も小型犬も等しく怖い人だけが、犬が怖いって言っていいの! 本当に犬が苦手な人はこのくらい怖がるもんなんだよ、えっへん!
怖がってるって自覚してるのに、なんでそんなに得意げなんだ……
ふえぇ……
ん? ……誰かが泣いてる?
後輩クン、あの女の子が泣いてるみたいだよ。何があったか聞いてみよ。
ねえ、大丈夫? どうして泣いてるの?
ふうせんが……とれなくなっちゃった……えーん……
あぁ、白石さん、あそこ見て。この子が言ってるのは、木の枝に引っかかってるあの風船のことじゃないかな。
風船がある場所はわかったものの、この木の枝は一番低いものでも地上からおよそ4メートルくらいの所に生えている。簡単に風船を取れる高さではない。
ナ~イス、後輩クン! 場所がわかればこっちのモンだよ。いい子だね、泣かないで。ウチらが風船を取ってあげる。
後輩クン、手を貸して。
どうするつもり? 風船を取るなら木に登るしかないけど、ゆずに追いつかれるのが怖くないの?
安心して、そんなに時間はかからないはず。両手を交差させて、ウチの足を支えて。ウチが足をかけたら、全力で押し上げて。
わ、わかった。上手くいくかな……
準備オッケー! いっくよー!
白石さんは数歩下がって距離をとり、一つ深呼吸すると、全速力で走り込んできて小さく跳んだ。私はバレーボールのアンダーサーブの要領で彼女の足を支え、上へ押し上げた。白石さんはその勢いに乗って高く跳び、風のような速さで風船の紐を掴んだ。
ゲット!
本当に掴んだ!? このジャンプ力、言わば「朝葉高校のスーパーヒーロー」だな……
はいどうぞ。今度はしっかり紐を掴んでね、もう離しちゃダメだよ。
ありがとう! おねーちゃん、すごーい! すーっごくたかくとんでた!
へへっ、ありがと。
解決したことだし、ウチらも逃げなきゃね、後輩クン。
あのさ、このまま逃げ続けるのは得策じゃないと思うんだけど。アラスカン・マラミュートは体力自慢で有名なのに、持久力で勝てると思う?
たとえどんなに体力が有り余ってようと、あの犬と持久力を競う必要はないよ。だって、勝っても別に見返りがある訳じゃないし、負けたら大変な目に遭うでしょ。どう考えても割に合わないよ。
確かに……明日も学校行って依頼に対処しないといけないし。じゃあ、どうしよっか?
そうだなぁ……ん?
近くにカフェがあるのを見つけた。ドアに掲げられた看板に「ペットの入店禁止」のマークが書かれている。
ひとまず、あのカフェに入って隠れない? ペットの入店禁止みたいだから、中でゆずが通り過ぎるのを待って、それから別の方向に逃げようよ。
ナイスアイデア、行こ! なんか飲みたいものある? ウチが奢ってあげる。
カフェに入ってすぐ、ゆずは私の見込み通り外の道を通り過ぎていった。私と白石さんの視線に気付いた様子は全くなかった。
計画通りにゆずの追跡を撒くと、白石さんに電話がかかってきた。そしてそのまま「弟の宿題見てあげなきゃだった!」と言って帰っていった。やることがなくなった私は、魂天神社で一姫と暇を潰そうかと考えていたが、道中でアラスカン・マラミュートを連れたゆずに再会した。
{var:player_nickname}か、なぜおまえだけなのだ? 奈々はどうした?
用があって先に帰ったよ。弱点克服の手伝いはまた今度だね。
キュルルゥ……わかったのだ。オリオ、それは明日学校でゆずが返すしかなさそうだぞ。
オリオと呼ばれたアラスカン・マラミュートはゆずの言葉を理解したらしく、耳を垂らして「クゥーン」と鳴くと、口にくわえていたシュシュをゆずに渡した。
もしかして、白石さんを追ってたのは、それを返すため?
そうなのだ、これはさっき奈々が逃げた時に落としたもので、拾ったオリオは奈々に返そうと彼女を追いかけてたのだ。
へぇ~、意外といい子なんだな。
オリオの頭に触れようとすると、オリオはすぐさま私の方を向いた。すごい反応速度だ……!
大丈夫だ、撫でたかったら撫でるがいい。こいつは人を噛んだりしないからな。おまえが手をこいつの口に突っ込もうと、ぽかんと口を開けるだけで、何もしないぞ。
そ、そうなの? でも口に手を突っ込む勇気なんて、私にはないよ……
ワウ……
よしよし……結構大人しいんだね。見た目とは全然違うな。
うむ、こいつは見た目こそいかついが、実際はすごく大人しくて、ちょっと抜けたとこもあるような奴なのだ。どんな相手にも駆け寄って挨拶するぞ。
他の犬に吠えられても、遊びに誘われてると思ってしまうのだ。キュルルゥ……逞しい見た目で良かったぞ。でないと、こんなに大人しい性格では簡単にいじめられてしまうからな。
奈々の逃げ足が思ったより速くて残念だったのだ。オリオが大人しい犬だと知ったら、どんなに犬が苦手な奴でもきっとオリオと一緒に遊ぼうと思えるはずなのに。
あのね、彼女、どんな犬でも怖いって胸張って豪語してたよ……でも、オリオはこんなにいい子なんだし、確かに試してみてもいいかもしれないな。あれ、気のせいかな? オリオ、なんだか嬉しくなさそうだね。
キュゥン……
おまえ、鋭いな。オリオは少しがっかりしてるのだ。こいつは奈々に同類の気配を感じ、特に気に入ってるらしく、一緒に遊べなくて残念に思ってるのだ。
同類の気配……って?
ゆずもよくわからん、こいつの言うことはいつもはっきりしないのだ。
……ん? 誰とでも仲良くしようとするし……優しいし……冷たくされても怒らない……元気いっぱい……走るのが速い……
オリオの頭を優しく撫でていると、誰かさんとこの子の面影が徐々に重なっていった……
あはっ、あははは……
何笑ってるのだ?
面白いことに思い当たっちゃった。なるほどね、オリオは人を見る目があって賢いから、ちょっとおバカに見えちゃうんだと思うよ。
キュル? まずいのだ、{var:player_nickname}ですらわかったというのに、ゆずはまだわからないのだ!
あれ、ディスられてる? よく考えてみて。オリオの誰とでも仲良くしようとする性格って、誰かに似てると思わない?
むむ……おぉ、わかったぞ。道理で奈々と遊びたがるわけなのだ。同類なら、奈々もきっとオリオを受け入れられるはず……よし! 弱点克服の希望が見えたぞ!
同感。今度白石さんに、オリオと触れ合ってみたらって言ってみる。だから、今日はそっとしておこう。
そうだなあ……オリオ、この後の時間は、よかったら私と一緒に遊ばない?
ワウ!? ワンワンッ!
あはは、一緒に遊んでくれる人がいるとすぐ喜ぶんだねぇ。じゃあ、どこかの公園に行って遊ぼう。
こうして計画は中止となり、私はこの人懐こく温厚な大型犬が白石さんと遊べなかった無念を晴らすべく、暗くなるまで一緒に遊ぶことにした。
ワオーンッ!
ま、待って~! ゆず、ゆっくり走るように出来ない!?
無理なのだ。オリオは走り出すと我を忘れがちなのだ。
また走るの? 体、もつかなぁ……
ひとまずカフェに隠れて様子を見て、ゆずがここの前を通り過ぎるを待ってから引き返す。この方法だとゆずの追跡からは逃れられるだろうが、再び出くわさないとも限らない。
……そうだ、朝葉高校に隠れてみる?
上手くいくかなぁ? 校則じゃ、特別な場合以外はペット禁止ってことになってるけど、今日は休みだし、仮にゆずちゃんが犬を連れて学校に入ってきても、警備員さんが止めてくれる保証は無いよ?
安心して、私にいい考えがある。行こう、グズグズしてたら追いつかれちゃうよ。
……おばあちゃん、足を動かすのが大変なら、次出かける時は誰かに付き添ってもらった方がいいよ。一人で道路を渡るのは危ないからさ。
ふぇふぇっ……ありがとうね。本当に優しいお嬢さんだねぇ。
さっきは道路標識がよく見えなくて……よかったら、もう一度向こうまで連れて行ってくれんかのう? すまないねぇ。
そ、そうなの? ごめんごめん、すぐ送るよ!
ふぇっふぇっ……前におんぶされたのは、爺さんが若い頃だったねぇ……
後輩クン、お待たせ、行こう! あと通りを二本抜けたら学校だ。
はーい。それにしても、逃げながら人助けをするなんて、その間に追いつかれたらとか思わないの?
困ってる人がいるんだもん、しょうがないよ。
こんなに走って立ち止まってを繰り返しているけど、まだ追いつかれないなんて、ラッキーなのかな、それとも白石さんの日頃の行いが良いからかな?
へへっ、それはもちろん日頃の行いが良いからでしょ!
この通りを抜けたら学校だ、行こう。
奈々、中にいるのか? 早く出てくるのだ。
ごめんね、副会長に手伝いで呼ばれてるんだ。ゆずも手伝う?
キュル!? ふ、副会長が中にいるのか……しまった、追いかけることに夢中で、ここが生徒会室だってことが頭から抜けてたぞ……
ワオーンッ!
シーッ! オ、オリオ、静かにするのだ。ほら行くぞ、他のところで遊ぼう。
副会長が、学校に犬を連れて来てるのかー、だって。
キテナイノダ、ソンナコトシテナイノダ! さ、さらばなのだ!
うーん、さすが我らが副会長、効力あるなあ。
生徒会室に逃げ込んで、副会長が中にいるって言って追っ払うなんて、考えたねぇ、後輩クン。
言ったでしょ? いい考えがあるって。
もうしばらくここから出ないほうがいいかも。ゆずが学校を出て行くのを確かめてから出よう。ちょうどここから校門の辺りが見えるし……
私と白石さんは、しばらくお喋りして過ごした。ゆずが学校を去ったことを確認した後、少し時間を置いて、生徒会室を出た。
そういえば、白石さんはどうして犬が怖いの? 噛まれたことがあるからとか?
後輩クンは心が読めるの!? その通り、子供の頃に噛まれて、それからずっと犬が怖いんだ。
全ての犬が人を噛むわけじゃないって思うだろうし、ウチだってわかってるつもり。だけど……
いや、わかるよ。一度怖い思いをすると、なかなかその時の恐怖心は抜けないよね。ましてや子供の頃に噛まれたんでしょ。子供の心は傷付きやすいし、幼少期に受けたダメージは、心に大きな影を落とすものだよ。
あの時の、ウチを噛んだあの犬の凶暴そうな目つきがずっと忘れられないんだ。噛む前は敵意も全然なかったのに……
そういう訳で、どんなにフレンドリーな犬でも触れないんだ。はぁ、ウチってダメだなぁ。
そんな風に言わないで。理屈ではわかってても、怖いものは怖いよ。人はそういうままならない生き物なんだ。無理に弱点を克服しようとしないで、流れに身を任せればいいんだよ。
……へへ、後輩クンがそう言ってくれて、かなり気が楽になったよ。
ワンッ?
ど、どこからか犬の鳴き声が聞こえた! まさかゆずちゃんたちが戻ってきたの!?
落ち着いて、あのアラスカン・マラミュートの鳴き声は、今のよりもっと迫力があったよ。ほら、あそこに犬が何頭かいる。喧嘩してるっぽいな。
びっくりしたぁ……
犬でも人でも、喧嘩の邪魔はしないのが賢明だね……ん? あの子供たち、犬たちのそばで何してるんだろ。
彼らの恐怖に固まった表情を見るに、恐らく犬たちの喧嘩の勢いに気圧されて、不用意に動けなくなってしまったのだろう。
このままだと白石さんがトラウマを思い出すかもしれない、でもあの子たちを放っておくわけにもいかない、どうしよう。
……ワン?
えっ……石? 今投げた?
う、うん……
ゥワン! ガルル……!
は、早く逃げよう! あいつらが来ちゃう! ちびっ子たちも早く逃げて!
ありがとう……!
アラスカン・マラミュート戦を制し、ホッとしたのも束の間、2ndステージ「野良犬の群れ」戦が始まった。
犬が怖かったはずでは!? なんで怒らせるようなことしたの!?!?
怖がってる子を見て体が勝手に……喋ってないで早く逃げるよ!
バウバウバウ……!
声を聞いただけで、捕まったらただじゃ済まないってわかるな。はぁ……アラスカン・マラミュートに追われる方がまだマシだったよ!
はぁ……はぁ……はぁ……一体いつまで……逃げればいいの……
白石さんの呼吸がどんどん荒くなっていく。緊張してるせいで、普段より体力の消耗が早いのだろう。というか今日は一日中逃げ回っていたのだから、いくら体力に自信があろうと、そろそろ限界のはずだ。
白石さん、木に登る体力は残ってる? ひとまず木の上でやり過ごすんだ、犬は私が引きつけるから!
無理……た、体力の限界、も~走れないよ~!
止まっちゃダメだって! まずい、早く何か策を考えないと……
ワオーンッ!
万事休すかと思われたその時、どっしりとした生き物が野良犬軍団の前に立ちはだかった。あっ、あれは、ゆずに連れられていたあのアラスカン・マラミュートだ! その巨大な姿に野良犬達はピタリと足を止め、一匹も前に出られなくなった。アラスカン・マラミュートを見つめながら、不安げに低くうなっている。
ワン……ワゥン……
……ワウ! ワウワウ!
クゥン……キュゥン……
文字通りしっぽを巻いて逃げたな……ふぅ、もし意を決して集団で襲ってきてたら、アラスカン・マラミュート君がどんなに獰猛でも多勢に無勢だっただろうね。物わかりよく逃げてくれてよかったよ。
オリオー? ……キュル? {var:player_nickname}と奈々、どうしてここにいるのだ?
家に帰る途中で、うっかり野良犬の群れを刺激しちゃったんだけど、この子に助けられたんだ。もし助けが入らなかったら、本当にどうなってたことやら。
公園の前に来た時、オリオがすごく興奮して走っていっちゃったのは、そういう訳だったのだな。おまえ達の匂いを嗅ぎつけたのだろう。
オリオって、このアラスカン・マラミュートの名前? オリオ、ありがとう。君の鋭い嗅覚のおかげだよ。
ワオーン……
走り去る野良犬達を見て、オリオは何故か少しがっかりしたような鳴き声をあげた。そして地面に落ちていた何かをくわえ、白石さんへと近づいた。
こ、こっち来た! 後輩クン、早く止めて!!!
オリオは白石さんの前まで来たが、無闇に近寄ろうとはせず、軽く頭を揺らしている。
……ゆず、もしかして、オリオは何か理由があって白石さんを探してたの?
どうしてわかるのだ? その通り、オリオが奈々を追っていたのは、口にくわえてる物を返すためなのだ。
口にくわえてるものって……え? これ、ウチの予備のシュシュ?
さっき、おまえが逃げた時に落としていったのだ。オリオはおまえにこれを返したくて追いかけてたのだ。
そ……そうだったんだ……
白石さんの近寄らないでオーラを察してか、オリオは紳士的にシュシュを地面に置いた。白石さんはそのシュシュを拾い、しばらく呆然とした後、少し顔を赤くしてオリオを見た。
ごめんね、ウチ、追いかけてからかってるんだと思ってたんだ。シュシュを届けに来てくれてありがとう、それから……守ってくれてありがとう。
後輩クン、ウチの代わりにこの子の頭を撫でてくれる? 本当は自分で撫でたいんだけど、勇気が出なくて。
うん、任せて。逃げないどころか、しっかり目を合わせてお礼まで言うなんて、十分大きな進歩だよ。
よくやった、今日一日お疲れ様、オリオ。
ワウワウ。
礼ならゆずにも言ってくれていいと思うのだ……
……ワウワウ。
キュル? 誤解だと?
オリオ、何て?
守ってくれたと言った奈々の言葉の意味が、オリオにはよくわからないみたいだぞ。
えっ……ウチ、ちゃんと伝えたよね?
さっきから聞いてりゃ、全然話が通じてねーな! やっぱり俺様が通訳してやるしかないワン!
ワン次郎、なんでここに?
散歩してたら、若え犬どもが「公園にキマイラがいる」ってギャーギャー騒いでたから、興味を引かれてわざわざ見に来てやったんだワン。
どんなキマイラかと思ったら、アラスカンの兄ちゃんじゃねぇか。まったく、若えモンってのはものを知らないな。
犬なのになんで「キマイラ」は知っててアラスカン・マラミュートを知らないのかは、ツッコまないでおくよ。オリオがなんて言ってるか教えてくれる?
任せろ。おう兄弟、さっき誤解してるって言ったが、どういう意味だワン?
ワウ、ワウワウワウ……ワウ!
ワンワン、そういうことか。俺が兄弟の言いたいことをそのまま伝えてやるワン。
「さっきの子達、二人にちょっかいを出してたの? 悲しいなあ、ボクはみんなで遊んでるんだと思って、混ぜてもらお~ってわざわざ走ってきたのに。あの子達、なんであんな猛スピードで遠くに行っちゃったんだろってフシギだった」だそうだワン。
つまり、白石さんを守ったとは全く思ってなかったのか……っていうか、今のちょっと吠えたのでこんなに長い言葉を喋ってたの!?
人間は犬語のことを深く理解する必要はないワン。とにかく、そういうことだワン。
……アハハ、この子、こんなに勇敢そうに見えてこんなにとぼけた子だったの?
キュルルゥ、アラスカン・マラミュートは見た目と中身のギャップが特に大きい犬で、オリオはその中でも単純な奴なのだ。人に叱られても、遊んでもらっていると思ってしまうし。見た目がいかついおかげで、手を出す奴はいないがな。
奈々、安心しろ。オリオは人懐っこくてとにかく走り回るのが好きなだけの、大人しい子だ。何度か触れ合えば、きっと弱点も克服出来るぞ。
ウチもそう思う。よし、今はまだ無理だけど、頑張ってこの大きな友達を受け入れられるようになって、仲良くなってみせるよ。
ワオンッ!
「キミには同類のニオイを感じる、仲良くなりたい」だそうだワン。
同類のニオイ……どういう意味?
同類……ぷぷぷ……!
親切で、誰とでも仲良くしようとする、走るのが好きな生き物……一度会っただけでお互いの共通点に気づくなんて、嗅覚だけではなく、勘も冴えてるんだな。
白石さんは私達が声を出して笑っているのを怪訝な目で見ながら、首をひねって目を閉じ、再び目を開けると「なるほど」といった表情をした。直後、私は腕に鋭い痛みを感じた。
な、何するんだ! 笑ってるのはみんな一緒なのに、なんで私だけ腕をひねられるの!?
そんなの、キミの笑い声が一番大きいからに決まってるでしょ! 笑うな! あーもー! 笑うなって言ってるじゃーーん!!
偽りの恋
契約を結ぶことで開放
Possible Endings
Scenario Script
Spots 1, Scenes 406, Choices 4, Endings 2
……あ! 来た来た、後輩クーン!
今日は惰眠を貪ろうと思っていたのだが、白石奈々から唐突に「相談したいことがあって」と電話がかかってきた。電話越しの声がやや焦っているように聞こえたので、眠いのを堪えて、待ち合わせ場所のカフェに向かった。
何か急ぎの用事?
あのさ……後輩クンはウチのこと、どう思ってる?
なんで? アンケートの宿題でも出た?
違う。とにかく、まずウチの質問に答えて。
そうだなぁ……大ざっぱで、誰に対してもフレンドリーで、人助けが好きだよね。で、基本的にはいい人だけど、頭より先に体が動く時もあって、ちょっとおっちょこちょいだよなーと思う。
あ、そうだ。あと犬が大の苦手。
うっ……弱点は言わなくていいよ。性格以外だったら? たとえば見た目とか。
見た目は普通に可愛いと思う。
おわぁ~……! だ、大体どれくらい可愛い!?
つ、付き合ってる人がいても、全然おかしくないくらい!?
どうどう……まあ、白石さんの容姿なら、簡単に彼氏も見つかりそうだよね。
ふふーん! やっぱり後輩クンもそう思うんだ。
落ち着いてってば……ちょっと褒めたらすぐ天狗になるんだから。
大げさだなぁ。ま、それは置いといて……でさ、キミはそんなウチとデートしたい?
あぁ、一緒に出かけたかったんだ。だったら回りくどい言い方しないで、そう言ってよ。
お出かけじゃなくて「デート」。つまり……つまり、カップルがするようなデートってこと!
カップルがするような……デート?
唐突なお誘いだなぁ、多分これ白石さんの仕掛けたドッキリだろうな。……あれ? 周りを見渡してもカメラは見当たらないし、恥ずかしさに耐えかねたかのように白石さんの頬がじわじわと赤らんでいってる。どうやら本気で言ってるらしい。
なら、私の答えは……
いいっちゃいいけど……
そこで言いよどむことある? でも、よかった! 後輩クンなら付き合ってくれるって思ってたんだ。
喜ぶにはまだ早いよ。急にデートに誘うだなんて、何か理由があるんだよね? ただの思いつきだなんて言わないでよ。
あー……いつもすっごく鈍感なくせに、なーんで今日はそんなに鋭いのかなぁ。
はやく白状しないと気が変わっちゃうよ。
ダメダメ、言うから、言いますから! 実はね、何日か前、同級生と話してて……
話はわかった、だが断る!
え……え~~!? 後輩クンはキュートでセクシーな、この魅力あふれる先輩とデートしたくないの!?
セクシーで魅力あふれる……? いくらキュートでセクシーな魅力あふれる先輩からのお誘いでも、急すぎてすぐには答えられないよ。
じゃ、じゃあどうすればオッケーしてくれる?
まずは、何があったのか教えてくれないとね。ただの思いつきだなんて言わないでよ。
わかったよ……実は、何日か前、同級生と話してて……
奈々、来週末のカラオケ、本当に行かなくていいの? バスケ部のイケメンルーキーも参加するのに~。あいつ、元気で明るいスポーツ系女子が好みらしいし、このチャンスを逃すなんてもったいないよ!
う、うん。来週末は用事があるから、皆で楽しく遊んできなよ。
は~あ、奈々ってば、男の子紹介してあげてもいっつもあーだこーだ言って逃げるんだから。青春は一瞬なのに、未だに奈々には春の気配がないよね~。
毎日予定が詰まってるの、知ってるでしょ。土日はいつも運動部の助っ人だし、恋愛してる暇なんてないよ。ていうか、ウチの恋人はこの学校さ! みたいな?
いや冗談じゃなくて、真面目に言ってるんだよ。「恋愛のための時間は、スポンジが吸い込んだ水のように、絞ればいくらでも出てくるものだ」って言うでしょ? 今すぐ付き合わなくても、色んな子と知り合って将来のために準備しておけばいいのに、そういう考えにも至らないなんて……はっ、まさか……
実は学校の外に秘密の恋人がいて、その人が許さないから合コンにも参加しない……とか?
何言ってんの、本当に超忙しいだけだってば。
うーん……まあそうだよね。本当に恋人がいたら、恋愛委員会の委員長であるこのヨシコ様が気付かない訳ないもん。
いつの間にそんな委員会が……? 副会長に報告してあるのかな……
ふふっ、本当によしこちゃんが気付いてないだけだったりして。私、奈々ちゃんが知らない人と一緒に遊んでるの最近よく見るよ。その人、うちの生徒じゃなさそうなんだよね。
そういえば、何日か前、奈々っちが知らない人の手を引きながら、ゆずちゃんとアラスカン・マラミュートから逃げてるの見た! もしかして同一人物?
み、見間違いだよ。手なんて繋いでないし。
あ! まさかその人って、奈々がよく言ってる「後輩クン」?
はぁ!? ウチと後輩クンはそんなんじゃ……
へぇ……アタシの恋愛センサーが反応しないことがあるなんてね。さっすが奈々、完璧に隠して付き合ってたんだ。正直に言いなさい! その人は誰? どうやって知り合ったの? いつから付き合ってるの!?
よ、よしこが思ってるようなことはないよ。
言い訳するってことは誤魔化してる、誤魔化してるってことは認めてるってことだよ。群衆の目は欺けぬ、見苦しい弁明はこのくらいにしたまえ、奈々クン。
アタシ、今週末にカレとデートするから、アンタもその人を連れてきて。アタシが連れて来たイケメンたちに見向きもしない奈々が夢中になってるその人を、アタシにしっかり紹介するように。てことでよろしくー!
ま、待って。よしこ、話を聞いて!
……なるほどね。全部わかったよ。けど、ただの誤解なら、どうしてその場でちゃんと説明せずに、こうして偽の恋人役を探してるの?
そうしたいとこなんだけど……一応自分なりに考えた結果なんだ。
よしこはいっつもグイグイ男の子を紹介してくれるから、断る回数も多くなってて、ちょっと申し訳なくてさ。誤解されてる今がむしろチャンスかなって。いっそウチに本当に恋人がいるって信じ込ませれば、もう男の子を紹介してくることもないでしょ。
なるほど、一理あるね。
前ニュースで見た話では、年長者からの結婚の催促を避けるため、わざわざ報酬と引き換えに偽の恋人を用意して帰省し、ひと時の平穏を得る人もいるらしい。白石さんも同じような方法で、圧が強いクラスの友達に対処しようとしているってことだ。
お願い、後輩クン! こんなこと、ウチが一番信頼するキミにしか頼めないんだよ、ホントお願いします!
……わかったよ、出来る限り協力する。ただし、バレた時は自力でなんとかしてね。
キミが手伝ってくれるなら、後はオールオッケーだよ! ありがとね、後輩クン! ここはウチが出すから、食べ物も飲み物も好きなだけ……あ、や、やっぱりちょーっとだけ手加減して。ウチ、今お小遣いピンチで……
大した手伝いじゃないし、そこまでしなくていいよ。デートの前に、当日の作戦を考えておこう。会って早々にボロが出たら気まずい所の話じゃなくなるし。
ここまで弱った様子で助けを求める白石さんを前にして、「一番信頼出来る後輩クン」である私が何もしないのは無理というものだ。
何より、今回の誤解のもとになった噂には、私もちょっと関係してるし……
そして迎えたデート当日、私は自主的に早起きして、ちょっといい服を着て家を出た。気持ち早めに集合場所に着き、しばらく野良猫と遊んでいると、白石さんがショルダーバッグを肩にかけて歩いて来た。
あれ? 珍しいね、後輩クンが先に来てるなんて。
今日はデートでしょ? 待たせる訳にはいかないよ。
へへっ、わかってんじゃん。どのくらい待った? もしかして……この辺で野宿しちゃうほど今日のデートが楽しみだったとか?
そんな大げさな、三十分くらい早く着いたってだけだよ。どう? 今日のデート、大丈夫そう?
安心して! 今日のためにめっっちゃ準備したんだ、全部やり遂げてみせるよ!
何をやり遂げるの?
えっ……よ、よしこ、おはよう。いつの間に来たの?
アンタがやる気満々に「全部やり遂げる」って叫んだ時ね。
終わった。今回のデートは「創業未だ半ばならずして、中道に崩殂」してしまった。
アンタたち、もしかして……
な、何……?
このデートの後にも予定があるんでしょ。たとえば、夜のプライベートデートコースとか。グヘへ、そうなんでしょ~?
ア、アハハハ……何を言うかと思ったら。ウチはただ、今日のデートを全力で楽しみたいだけ。だから、下世話な想像も、グヘへ笑いもやめて。
わかった、もうからかわない。それで、アンタの隣にいるのが「後輩クン」ね?
はじめまして、{var:player_nickname}と言います。
あ~、そういう堅苦しいやつはいいって。アタシのことは、奈々みたいに「よしこ」って呼んでくれればいいから。で、こっちは、アタシの彼氏。
なんてお呼びすれば? あなたがよしこさんだから、彼氏さんはよしお、なんてことはないよね?
え? まさか君、超能力者? なんで俺の名前を知ってるんだ?
……本当に「よしお」って名前なの!?
よし、自己紹介はこのくらいにして、予定通り映画を見に行こー。
行こっか、{var:player_nickname}。
……、うん、そうだね。
どうしたの? ボーッとしちゃって。
「後輩クン」って呼ばれるのに慣れちゃってて、名前を呼ばれた時咄嗟に反応出来なかったんだ。
そういうことか。じゃあ、もっとわかりやすい呼び方にする? 「ダーリン」とか。
ヒェ……鳥肌立った。
ホントにーー? 信じられないなぁ。ダーリン。
そっちがその気なら、私も遠慮しないよ、奈々ちゃん。
うぇっ!?
私が白石さん……いや、奈々ちゃんと手を繋ぐと、奈々ちゃんは驚いた猫のように飛び退った。前を歩いていたよしこがそれに気付き、じーっと疑惑の目を向けてきた。
んー? 奈々、どうしたの?
なんでもないよ。私の手が冷たかったみたいで、手を繋いだら驚かせちゃったんだ。
そ、そうそう。キミ、なんでそんなに手が冷たいの? 運動サボってるんじゃない? 手、出して。さすってあげる。
ありがとう。……慌てないで、手を繋ぐくらいカップルだったら普通でしょ? いちいち騒いでたらもたないよ。
はーっ……それはそうだけど……キミだって顔が真っ赤だよ?
私のは違う原因によるものだよ……
だって、「さすってあげる」としか言われてなかったんだぞ。そんな風に手に息を吹きかけて温めてくれるとは聞いてなかったんだから仕方ないじゃないか!
奈々、見たいやつある? なかったら、話してた通り「ロマンチックな休日」にしようか?
オッケ~。ウチ、クーポン持ってるからチケット買ってくるよ。
……調べてみたら、文学的なラブロマンスって出て来たけど、こういうのが好きだったの?
正直そんなに興味ないんだけど、デートだとこういう映画を選ぶのが正しいんでしょ……
あれ? 仮面ヒーローの新作!? なんでもうやってんの!? ……あ、試写会か。公開日はもう少し先のはずだもんね。
そういえば、奈々ちゃんは仮面ヒーローが好きだよね。子どもの頃、ヒーローショーのステージで大活躍したんでしょ?
そうだよぉ、ウチが初めて怪人と真っ向勝負したの。まあ、今ヒーローショーを見に行った所で、もうステージに立つチャンスはないんだけどね。
奈々ー、チケット買えたー?
あ、ゴメン、もうちょい待ってて。あとちょっとだから。
ねぇ、仮面ヒーローの映画が見たいんじゃないの?
また今度弟と一緒に観るよ、あの子も仮面ヒーローが好きだし、そもそももう4人分も並んで座れる空席ないだろうしさ。あ、でも今日は来場者特典の色紙をもらえたのかぁ、ちょっと残念かも。
そっか……
カップルのデートで、仮面ヒーローのような特撮映画を観るのは少し変だろう。奈々ちゃんの言う通り、こういう時は文学的なラブロマンス映画を選ぶのが正しいはず。予定通り、「ロマンチックな休日」を観ることにした。
ふわ……っと。
危ない、あと少しであくびする所だった。この映画はストーリーの展開がすごくゆっくりしていて、観てると眠気を誘われる……ん?
すぅ……すぅ……
こ、こいつ……奈々ちゃんは一足先に寝入ってしまっており、かすかな寝息すら聞こえてきた。あまりに気持ちよさそうだったので、私は奈々ちゃんの手の甲を軽くつねった。
いっ!? ……たぁ……!
飛び起きて叫び声を上げそうになった奈々ちゃんを見て、私はすかさず人差し指を唇にあて、喋らないようにと制した。それから、スマホ画面の明るさを一番低く調整し、ショートメールを書いた。
つまんなくても寝ちゃだめ カップルで恋愛もの見てて、ロマンチックなムードにならないどころか寝てたなんてバレたら色々まずい
奈々ちゃんは私のやろうとしてることを悟ったらしく、よしこさんにスマホが見えないよう体を傾け、私と同じようにスマホを取り出し、画面の明るさを最低まで調整した。
ヤバ!ウチ寝ちゃった どうしよ
ミミさんは映画に集中してるっぽい、多分気付いてない この後は絶対寝ないで!
おっけ!遭難した時と同じ、寝たら終わりってことね!
生死を争うレベルまで引き上げなくていいよ
いやいや、後輩クンはわかってないな~ このくらい覚悟決めてはじめて、カップル偽装ミッションをやり遂げられるんだよ!
真っ先に寝た人もそのくらいの覚悟が出来るといいんだけどね
少し気を抜いただけ! 大丈夫、これからはバッチリ気を付けるから
でも万が一、万が一ね、またうっかり寝ちゃったら起こしてね
じゃあ君は私の意識がずっと飛ばないよう祈ってて
そんなやり取りをした直後、早くも「万が一」が起きたらしい。たった数分で、同じような寝息が聞こえてきた。
……つねるよ。
いっ……!
数分おきにつねって起こさないといけないんじゃ、自分の心配はしなくてよさそうだな。
ね~、なんでラブストーリーの時はいつもよだれ垂らすくらい眠りこけちゃうの? ティッシュちょうだいってつついても返事してくれないし。
ふわぁ……めっちゃつまんなかったもん。開始五分を耐えただけでも褒めてほしいくらい。
{var:player_nickname}達ってすごく我慢強いんだね。最後まで寝なかったなんて、尊敬するよ。
ま、まぁね。少し展開がゆっくりめだったけど、いい話だったよ。
そういえば、奈々も寝なかったんだね、珍しい。前にみんなで恋愛もの観に行った時は、一番最初に寝てたのに。
今日は一緒に観てた人が違ったからね。ねっ、{var:player_nickname}?
いっ……あ、うん、そうそう……
私が奈々ちゃんをつねった数回分を合わせても、今つねられた一回分の痛みには及ばないと思うけど、ここは甘んじて受け入れるしかない。よしおくんが寝ていることに早く気付けていれば、奈々ちゃんも緊張と痛みに晒されることなく、思う存分眠れただろうに。
……よしこさん、ごめん。観たいやつ見つけちゃったから、別々で見ていい?
え? や、それはダメでしょ。同じ映画を見るって決めて来たんだし。
いいよ~、二人は何にするの?
仮面ヒーローの新作映画。私、このシリーズの大ファンなんだ。
確か奈々も好きだったよね、やっぱり似た者同士がくっつくんだな~。じゃあ、それぞれ観たい映画を観ることにしよっか。
俺も仮面ヒーローが見たいんだけど。
アンタはこっち! 今日は最後まで起きててよね! もしアタシが泣いた時にティッシュを出してくれなかったら終わりだから!
こうして、二組のカップルは受付を通り、それぞれ別のシアターに入っていった。
本当に良かったのかな、後輩クン。確かにウチら二人とも仮面ヒーローのファンだけど、カップルで特撮映画って変じゃない? 疑われないかな?
大丈夫でしょ。デートっていうのは、自分達がしたいこととか好きなことをするものだよね。想像してみて、もし私達があのラブロマンス映画に興味を持てずに寝ちゃったりなんかしたら、その方がよしこさんに疑われるかもしれないよ?
確かにそうかも。
あと、合流するまでの間も私のことは名前で呼んで。じゃないと、ここを出た時また「後輩クン」って呼びそうだから。
お、オッケー……
心配しすぎないようになだめたものの、まだ安心出来ないらしい。座席についてからも、奈々ちゃんは度々入口の方を見ていた。しかし、その不安もじきに和らいだようで、場内が暗くなるとすぐに映画に集中しだした。
諦める? フン! 俺が背負っているのは、子供たちの夢だ! オーラス・ジャッジメント・フォーム!
見て見て! これが劇場版の最終形態なの! 超かっこよくない!?
かっこいい。この揺れる座席、すごいなぁ。ちゃんと座ってなよ、うっかり転げ落ちないようにね。
クライマックスに向かうにつれ、奈々ちゃんと周囲のちびっ子達のテンションがどんどん上がっていく。スクリーンに映る仮面ヒーローに「頑張れー」と声援を送り、シアター内はかなりの盛り上がりを見せた。4D映画専用の座席も、激しくなる戦闘にあわせて大きく揺れ、まるでジェットコースターに乗っているような体験が出来た。
うう……背中が痛い……
訂正、ジェットコースターと全身マッサージのコンボ技を受けているような体験が出来た。この座席は、左右に大きく揺れるだけでなく、場面に合わせて細かく振動したりもする。今スクリーンの中でボコボコに殴られている怪人って、もしかして自分かも……? と錯覚するくらいリアルだ。
ふ~、映画面白かったな~! 色紙ももらえたし、大満足!
ははは、楽しめたみたいで良かった。
こっちも終わったよー。ん?{var:player_nickname}さん、ちょっと疲れてるみたい?
大丈夫、ただ全身マッサージを受けたから、体がちょっとふにゃふにゃになってるだけ。
そっちはマッサージ機能つきシートだったの? すげー、それがわかってたら俺たちもそっちに行ったのになー。さっきの映画、つまんなくて寝ちゃったんだよ。マッサージチェアがあればもっと快眠出来たのに。
アンタね~、よくもぬけぬけとそんなこと言えたわね!
うぐっ……その肘鉄、あと数センチずれてたら、俺の腎臓にクリーンヒットだったぞ……
そろそろお昼の時間だけど、何か食べたいものある? この辺で良さげな場所がないか調べてみるよ。
大丈夫、それについてはウチが考えてあるから。ジャジャーン! お弁当を持ってきたよ~!
え? 奈々ちゃんがお弁当を?
お出かけデートの時にお弁当を作って行く、少女漫画の王道でしょ!
お~、お弁当を持ってお出かけデートか、コテコテだね。最近の少女漫画だと、王道すぎるのかあんまり見かけなくなってるけど。
え、そ、そうなの?
うん。でもよかった、今日のダブルデートは気の合うメンバーが揃ってるみたいで。じゃじゃ~ん、アタシもお弁当を持ってきたの。古典的デート一族へようこそ~。
……うぅ~、古典的万歳! よしこ~!
おっと……泣くほど嬉しかったの? よしよし。
あー、腹減った。彼女同士で見せつけてないで、どっかで座って彼氏にあーんしてこそ王道だと思うよ俺は。
確か近くに良い感じの公園があったはず。そこで食べよう。
公園に着いて適当に座り、奈々ちゃんが作ってくれたお弁当箱の蓋を開けると、思わず目を見開いた。
おぉ~! どのおかずもちゃんとしてる、美味しそう。
{var:player_nickname}さん、奈々の料理を初めて見たみたいな反応だね。いつも作ってくれないの? 弟くんのお弁当も奈々が作ってたよね。
あ、だ、だっていつも忙しそうだし、負担になりたくないから作ってもらったことがないんだ。それに、デートの時だけ食べられるお弁当って思えば、新鮮に感じられるでしょ? 味もより美味しく感じるだろうし。
へ~? それってつまり、しょっちゅう食べたら美味しさも無くなるってこと?
そうは言ってないでしょ……どれどれ、まずは一口……
ちょい待ち!
えっ……奈々ちゃん、これって……
せっかく作って来たんだし、最初の一口はもちろんウチが食べさせてあげる。ほら、口開けて、あーん……
あら~、わざわざお弁当を持ってきたのは、見せつけるためだったのか~。じゃあ、お邪魔虫は向こうに行ってるね。お二人さん、ごゆっくり~。
……こ、ここまでする必要ある?
もちろん、これも少女漫画のテンプレでしょ? ほら早く、手が疲れてきちゃった。
わ、わかったよ……あーん……
よしよし。さっきあそこまで迷ってたのは、誰かの前でウチにあーんされるのが恥ずかしかったから?
まぁ、それはちょっとあるね……
へへ、やっとキミの照れてるトコが見れた。今日、キミはずっと普段通りだったから、このデートに緊張しまくってるのはウチだけなんだなーって、なんか負けた気がしてたんだよね。
勝ち負けなのかな、それ。あー……とりあえず食べない? 君の手じゃないけど、私も何度も開け直してたら口が疲れちゃうよ。あーん……
いくよー、ほいっと……
……
ミートボールが私の左頬を華麗に滑り、ソースの跡がついた。
ご、ごめん、手が滑っちゃった。よいしょっ……
右頬にもソースの感触が。せめて左右対称になっていればいいんだけど。
お、おかしいな。もう一回……
待って、このままだと私の顔がキャンバスになっちゃう。なんでそんなに手が震えてるの? ……もしかして、食べさせるのが恥ずかしかったり?
あはは、そんなわけないでしょ! ウチはただ、誰かにあーんするのが初めてだから、ちょーっとだけ緊張してるってだけで。
すごい汗だけど……。
喋らないで、集中させて。ふぅ……落ち着くのよ、白石奈々。これくらい簡単でしょ? 緊張したり恥ずかしがったりすることないんだから……
あー……あごが疲れてきた。
……今だ!
んぐっ!?
ようやく一口目を食べさせてもらった。本当に大変だった。
や、やっぱりいいよ。自分で食べるから。
はぁ……ウチにやらせてくれたっていいじゃん、ホントに可愛くないなぁ。あんなに迷ってたのは、あーんされるのが恥ずかしいから?
まぁ、それはちょっとあるね……
へへ、やっとキミの照れてるトコが見れた。今日、キミはずっと普段通りだったから、このデートに緊張しまくってるのはウチだけなんだなーって、なんか負けた気がしてたんだよね。
変な負けん気が出たな……まあ、あーんされるのが恥ずかしかったのは本当だから、私の負けってことでいいよ。それじゃあ、奈々ちゃんの手料理を思う存分味わわせてもらおうかな。
どれから手をつけようかな……まずはこのミートボールにしよう。
むぐむぐ……ん!? み、水……
{var:player_nickname}、喉に詰まらせちゃったの!? ほらほら、水飲んで。
ゴクッ……いや、詰まらせたんじゃなくて、ただこのミートボールが辛かったから。
あ、ごめん。ウチの作る料理ってちょっと辛いんだよね、言い忘れてた。
ちょっと……?
人の体質や感覚は千差万別だ。私と奈々ちゃんの「ちょっと辛い」の定義にも、きっと大きな差があるのだろう。私は未だにヒリヒリしている舌を手であおぎ、ひとまずミートボールはこのくらいにしておいて、隣のスペースに詰められた野菜を食べてみた。
むぐむぐ……んっ、この独特な鼻にツーンとくる感覚……ワサビ?
そうだよ。ワサビ醤油をちょろっとおひたしにたらすと美味しいって、お母さんから聞いたんだ。
じゃあ、このトンカツの表面の黄色いのは……やっぱり、マスタードだ。ゴホゴホッ、ごめん、もう少し水をもらっていい……?
このお弁当、デザートを含む全てのおかずがそれぞれに辛いぞ。ふっくらした白いご飯にまで、青唐辛子の風味が利いている……私はお弁当を見つめ、しばらく黙り込んだ。というか、辛いデザートは「デザート」のうちに入るのか?
……奈々ちゃんは、辛いものが好きなの?
うん、家族全員辛いものが好きなんだ。けど、あんまり辛いと食べられないだろうなと思って、キミのぶんは特別に少しマイルドめに作ってあるよ。
マイルドねぇ……ちょっとそっち貰ってもいい?
これもしかしてドッキリ用のお弁当なんじゃ?と疑っていた私は、奈々ちゃんの分を一口わけてもらった。うっ……!!! ……認めよう、「マイルド」仕様の味すら受け入れられなかった自分の弱さを……。
はぁ、君の手料理はいつもすごく美味しいよ。このまま胃袋を掴まれてしまったら、俺はどうすればいいんだろうな。
水で辛さを和らげていると、背後からよしおくんの称賛の声が聞こえてきた。羨ましい、あっちはどんなご馳走を食べているんだろう。そう思って振り返ると……
そこでは、世にも奇妙なやり取りが繰り広げられていた。
美味しいよ……手が止まらない。次はちょっと量を減らしてくれよ、俺が太ったら「よしお」じゃなくなっちまうし……な?
もっと褒めてくれていいし、どんどん食べていいんだからね。
百歩譲って、お弁当箱の中で紫色の気泡を発している形容し難い食べ物はいいとして、どんなに美味しい食べ物でも、顔が青ざめたり白目をむくことはないよね!?
いずれにせよ、よしおの幸せそうな笑みは本物だ。これが……これこそが「愛」というやつなのかもしれない。
甘くカオスな光景から手元のお弁当箱へと視線を戻す。ふと、奈々ちゃんがお弁当をせっせと用意している姿が脳裏に浮かんだ。陽光に溶けるような優しい微笑みに、私は自分の弱さを恥じた。
……ちょっと辛いのがなんだ。これは奈々ちゃんが手間暇かけて用意してくれたお弁当なんだから、絶対完食するんだ。
……あれ、{var:player_nickname}、汗びっしょりだけど、もしかして辛すぎた?
そんなことないよ! マイルドって言うだけあって、全然辛くないよ。大丈夫、汗をかくのは体にいいし。
うんうん、美味しいよ! やっぱり奈々ちゃんは準備がいいね、最近冷え込んできたから、辛いものがぴったり……ゲホゲホッ!
だ、大丈夫?
大丈夫……ただ、ご飯が美味しすぎて、はは……ちょっと慌てて食べちゃった。水を飲めば落ち着くよ。
本当に大丈夫? 顔が真っ赤だよ、辛くて食べられないんだったら無理しなくていいからね。
いいや、食べる!
止まらずに食べ続けるんだ。ご飯を食べて涙が出るなんて、幸せな証拠じゃないか! ここにあるのはただのお弁当じゃない、愛だ! 愛なんだ! 愛に応えるために必要なのは……虎穴に飛び込む勇気!
怖がるな、どんなに辛くても、……少なくとも、命の危険はない!
唇を腫れ上がらせながら、お弁当箱を洗いに行こうと立ち上がると、ちょうどよしおくんも青ざめた顔で立ち上がった。彼は少し目をグルグルさせながらも、依然として幸せそうな笑みを浮かべていた。
よぉ……友よ、弁当は完食したか……
もちろん……すっかり食べきったよ……
友よ……!
親指を立てたよしおくんに、私は微笑みで応えた。人生って不思議だよな。ただご飯を食べただけなのに、私とこの人はまるで昔からよく知っている間柄だったかのように、互いを大切な友人だと思うようになった。私は彼の震える体を支え、救急車を呼ばずに済みますようにと祈った……
こうして、命がけで愛の試練に立ち向かったランチタイムが終わった。私達は町をぶらつきながら、これからどこで遊ぶかを考えていた。
……奈々ちゃん、カラオケみたいな所を探した方がいいと思う。町を歩き回り続けて知り合いにでも出くわしたら、ボロが出かねないよ。
……確かに。そうしよう。
ねえよしこ、カラオケに行かない?
いいねぇ、けど、さっき占い屋を見つけてさ。アタシ、先にそっち行きたいな~。
……嫌な予感がする。
いらっしゃいませ。
これって……一飜市には占い屋が一軒しかない……ってコト!?
……ど、どうしよう? カーヴィさん、ウチらのことバラしたりしないよね?
……お、落ち着いて。私達が今カップルを演じてることは知らないはずだし、占ってもらわなければいいんだよ……
こんにちは。あの、恋愛運を占ってほしいんです。奈々達も占ってもらうでしょ?
ウ、ウチはいいや……
ダメだよ! 未来には予測出来ないことがたくさんあるんだし、事前にそれを知っておけば二人の絆もより強くなるんだから! せっかく来たんだし、一緒に占ってもらおうよ。
カップル……
……
……
私と奈々ちゃんをしげしげと見るカーヴィさんに、私達は冷や汗を流した。幸い何か突っ込まれることもなく、テーブルに置かれたタロットカードでよしこを占った。
……「恋人達」の正位置、お二人はもっと親密な関係へと発展していくでしょう。いい結果です。
恋愛運の占いで「恋人達」が出るなんて、よしこは運がいいな。
これは運命、運なんて言わないで。奈々、次はアンタ達の番だよ。
オッケー……
私と白石奈々が席につくと、カーヴィはタロットカードをしまい、テーブルの中央に水晶玉を置いた。
どうしてタロットカードを使わないんですか?
最適な占い方は人によって異なります。正しい導き方を選んでこそ、運命を示せるのです。どうぞ静かにあなたの未来をお待ちください。
……あら、面白いですね。
な、何が見えたんですか?
手を繋ぎ、共に歩く二人の影。その姿からは絆や親密さが感じられます。現在はこの通り見えましたが、未来は少しも見えてきませんね。霧が私の両目を覆っているかのよう……こんな風に運命のしっぽをまるで掴めなかったのは久しぶりです。
それって、ウチらはこの先うまくいかないってことですか? カ……先生、もう一度占ってみてくれませんか?
運命のベールを無理やり剥がすのは、本来であればマナー違反ですが……自ら未来に近付くのであれば、問題ありません。
……ご高見、お伺いしても?
これは、かつて師匠からいただいたお守りです。しばらく家に置いていたのですが、なぜか、今日はこれを持ちたくなりました。今思えば、このお守りはよりふさわしい主を求めていたのかもしれません。
わかりました、買います。いくらですか?
未来の値段は、答えを渇望するご本人様に決めていただくものです。
結局金目当てか。すぐに私達が偽りのカップルだと暴露しなかったことに免じて、以前お守りを買った時の二倍の値段を支払い、二人分の口止め料とすることにした。
ふふ……ありがとうございます。
ん? ごめん、電話だ。
もしもし……え? 今? ごめん、今は厳しいかも……
どうしたの?
ちょっと待って……水泳部の友達が、他校との合同練習で欠員が出たから、来られないかって……でもいいよ、他の人をあたってもらうから。
待ってる人がいるなら、行っておいで。
でも、まだデートは終わってないんだよ? キミ一人をここに置いてはいけないよ。
行きなって。奈々ちゃんのことだから、行かないとこの後ずっと代わりが見つかったか心配するだろうし、そうなると思いきり遊べないでしょ。デートなら、また今度続きをすればいいから。
うん……そっか。じゃあ、そうする。よしこ、ごめん! ウチ、学校行くね。今度何か飲み物でも奢るから。
うん、行ってきな。遊んでる途中でアンタに抜けられるのなんて慣れっこだし。
人助けとはいえ、デート中に抜け出すなんてちょっと空気が読めない子だね。怒ったりしないの?
うん、慣れてるから。そういう親切な性格だから、奈々ちゃんは人に好かれるんだよ。
わ~~、めっちゃ優しい。包容力はあるに越したことはないけど、{var:player_nickname}さんの場合、たまには物わかりよくない時があってもいいと思うよ。
あはは、じゃあヤキモチを焼いた感じで振る舞えばよかったかな?
そっちの方が可愛い! さ、追いかけて応援しないとね。このまま解散しちゃったら、せっかく今まで苦労してカップルのフリをしてきてくれたのが最後の最後で無駄になっちゃうし。
……
バレてた? なぜだ、どうして見破られたんだ。これからどうしよう……
……どうしてわかったの?
あれ? 言い訳とかしないの?
そういう言葉が出てくるってことは、私達の様子に不自然な所があったんだよね? なら、言い訳したって無駄だし。
私が見破ったっていうより、奈々が嘘をつくのが下手なんだよね。最初、アンタが手を握った時、奈々は耳まで真っ赤にして照れてた。本当に付き合ってたら、手を繋いだくらいであそこまで恥ずかしがるかなーって。
そっか……根拠はそれだけ?
{var:player_nickname}さんは、大体はすごく自然に振る舞えてたけど、ランチの時にボロが出てた。クラスの友達のアタシですら、奈々の料理が激辛だってことを知ってるのに、恋人のアンタが何の対策もせず辛さにやられるのは変だよ。
でもま、連れて来られたのがアンタじゃなかったら、もっと早い段階でバレちゃってただろうね。十分よくやったと思うよ。さっき、アンタが応援について行ってたら、付き合いたてのカップルなんだろうな~なんて思って、そういう小さな違和感はスルーしてたかもだし。
カップルはいつも一緒にいなきゃいけないって訳じゃないけど、こういう時はパートナーを追いかけるのが自然だよ。わざわざ残ったのはアタシ達のお邪魔虫になるため、なんてことないでしょ?
……はぁ、詰めが甘かったな。彼女がデートを抜けたのに、自分は残って別のカップルと一緒に過ごすなんて、確かに不自然だよね。今日初対面の二人とならなおさらだ。
見抜いてたなら、なんでもっと早く言わなかったの?
そんなの、面白いからに決まってるじゃーん。ぷぷぷ……アタシ達を騙すため、二人してあたふたしてるの、めっちゃ面白かったなぁ。
あ……そういえば、さっきお守りを買わせる流れに持ってっちゃったよね。アタシ、半分出すよ。
いいよ、これはよしこさんを騙そうとしたペナルティってことで。
そう? それじゃ、もう少しブラブラして、それから皆で学校に奈々を迎えに行こーよ。偽カップルだとしてもデート中であることには変わりないんだし、こういう時「彼女」を独りで家に帰らせるなんてあんまりでしょ。
そうだね。本物のカップルから色々学ばせていただくよ。
よし、じゃあ行くよ。……あのさ、なんでよしおはずっと無言でボケっと突っ立ってるの?
……{var:player_nickname}、お前……奈々ちゃんと付き合ってなかったの!?
……
……こいつ、バカで鈍感なの。ほっといていいよ。
自ら騙されてたことを白状してくれるなんて、まさか今日一日の私達の努力は無駄じゃなかったって知らせるために……! 泣けるぜ……!
友よ……(親指を立てる)
……ん? よしこ、それにみんな。なんで来たの?
わざわざ迎えに来させてあげたの。恋人に会えたんだよ、喜びのハグでもしたらどう~?
も、もちろん嬉しいけど、ハグはいいかな……
よしこさん、からかうのはそのくらいで。奈々ちゃん、もう演技しなくていいよ。
あ~……よしこ、ごめん! 騙すつもりはなかったの、これには理由があって……
謝らなくていいよ、今日は楽しかったでしょ? 理由については、ここに来る途中で{var:player_nickname}さんから聞いた。
ごめんね、奈々。もう男の子を紹介したりしないよ。
本当に?
まったく、奈々も奈々だよね、迷惑なら素直にそう言ってくれればいいのに。大親友のアタシが怒るんじゃって心配だったの? それに、いい恋人候補が近くにいるって知ってたら、そんなことしてないよ。
それって{var:player_nickname}のこと?
え!?
他に誰がいるの? 奈々、よく考えてみて。もし今日の奈々みたいにデートを途中ですっぽかす恋人がいたら、怒らない人なんてほとんどいない。アンタの人助け……人によってはある種の「わがまま」に喜んで送り出す人なんて、もっといないよ。
その点、{var:player_nickname}さんはすごくいい人だと思うよ、いっそ本当に付き合っちゃえばいいのに。
こ、後輩クン、よしこの言うことを真に受けたらダメ、冗談だから!
冗談かどうかは今後の進展次第かなー。じゃ、アタシらはこれで。お二人さん、ごゆっくり~。
……あ、そうだ。奈々、どうやって説明するか考えてあるの?
説明? よしこはもう真相を知ってるんだよね?
うん、知ってる。でも他の人達は? この一飜市は広いと言えば広いけど、狭いと言えば狭いよ。今日、知り合いに一度も見られなかった保証はないよね?
後輩クン、どうしよう! デートの時、花ちゃんや嵐星ちゃん、リサリサ……他にも、とにかくたくさんの人にウチらが手を繋ぎながら町を歩いてる所を見られてたの! さっきグラウンドを掃除してたら、皆に取り囲まれて質問攻めにされたんだけど、どう説明すればいいの!?{var:Shake}
あはは……奇遇だね。私も疑問文だらけのショートメールの山にどう返信しようか考えてたところだよ……
話している間にも、テーブルの上のスマホが再び振動した。送信者欄には「如月蓮」と表示されていて、余計に返信が億劫になった……
カップルのフリって……私と奈々ちゃんのこと? ごめん、言ってることがよくわからないや。
それに、応援しに行かないとは言ってないよ。ちょうど今から行こうとしてたんだ。
ふーん? じゃあ、なんでさっき一緒に行かなかったの?
もちろん、奈々ちゃんに差し入れするスポーツドリンクとか調達するためだよ。
優しいとは思ってたけど、ここまでとはね……。奈々によろしく言っといて。
これ以上ボロを出すのが怖くて、私は逃げるようにしてその場を離れた。よしこさん達の姿が見えなくなった頃、私はようやくホッと息をついた。よしこさんが探りを入れてきた時は本気でヒヤヒヤした。
どうやって見破ったんだろう。一緒に行かなかったから? まあ確かにおかしいよな。私が本当に奈々ちゃんと付き合っていたら、彼女が試合に行っちゃったのに自分は残って初対面のカップルと一緒に過ごそうとするなんて、まあまあ怪しいかも。
お、いたいた。
私がスポーツドリンクとプロテインバーを手に学校に着くと、ちょうど奈々ちゃんはプールサイドに座って体を拭いているところだった。
調子はどう?
うぇっ!? こ、後輩クン、なんで来たの?
応援しに来たよ。
奈々ー、この人は?
わざわざ差し入れを持ってきてくれるなんて……ただの応援って訳じゃなさそうだね?
「後輩クン」……あっ! わかった、この人、奈々がしょっちゅう名前を出してる人でしょ?
後輩クン、嘘だから! そんなに言ってな……ん!? もごご……!
奈々はちょっと静かにしてて、私達この人に聞きたいことが色々あるから。私が奈々を押さえとく、みんな早く質問しちゃって!
後輩クン、こんにちは。奈々とどうやって知り合ったの?
まどろっこしいな、もう直球で行こうよ! あなたと奈々ってどういう関係なの?
どういう関係? 文字通り、先輩と後輩の関係だよ。
それだけ?
ちょ……ちょっと……余計なこと聞かないで!
……奈々ちゃんは情に厚いから、お世話になってる後輩がたくさんいるんだ。私もその一人だよ。
でも……私は、他の後輩とはひと味違うかもね。だって前に「一番信頼出来る後輩クン」って言われたことあるし。
私も、奈々ちゃんのことは「一番信頼出来て、一番大切な先輩」だと思ってるよ。
こ、後輩クン……
この回答で、皆満足してくれたかな?
一番大切な先輩かぁ……
うんうん、想像をかき立てられるねぇ、オッケーオッケー!
じゃあ、私たちはこれで……
ちょっと! いそいそと行かないで! 戻ってきてってば! ウチらは皆が思ってるような関係じゃ……
やめときな、もうあんなとこまで行っちゃったよ。お腹空いてる? とりあえず何か食べたら?
ありがとう……後輩クン、無理に付き合って答えることなかったのに。
何も言わなかったら言わなかったで、あれこれと想像されるよね? それっぽい答えを返しておけば、ゆっくり休憩出来るよ。
私達の関係は、自分達がわかっていればいいよ。それに、別に嘘を言った訳じゃないし。どう解釈されようと、「これ以上はご想像にお任せします」としか言えないよ。
それはそうだけど……そうだ、後輩クンが急に来るなんて、ただ応援しに来たんじゃないでしょ。まさかよしこに何か言われた?
一人で助っ人に行かせたから、よしこさんに偽カップルなんじゃないかって疑われて……それで、慌てて駆けつけたんだ。
でも、彼女が疑ってる理由はそれだけじゃないと思う。どうやって説明するか考えておいた方がいいよ。
うーん……行き詰ったら、騙してゴメンって正直に謝るしかなさそうだね。
後輩クン、ごめんね。よく考えないで助っ人に来ちゃったせいで、キミに後始末を押し付けることになっちゃった。
おっちょこちょいなのは今に始まったことじゃないんだし、慣れてるから大丈夫。
そんなにストレートに言わなくても……はぁ、こうして振り返ると、確かにウチは恋愛に向いてないね。度々自分を放っぽって、他の人を助けに行っちゃうような奴を好きになる人なんていないよ。
ウチらが本当に付き合ってなくてよかった。じゃなきゃ、いくら性格がいい後輩クンでも怒ってただろうし。
うーん。人を好きになる時って、たいていは相手の素敵なところに惹かれるものだよね。率先して人助けするのは、それこそ奈々ちゃんの魅力なんじゃないかな? そんな君を好きになったら、私だってきっとささやかな「わがまま」を受け入れる覚悟くらいすると思うよ。
後輩クン……じゃあキミは、ウチが時々そそっかしいことも理解してくれてるし、ウチのせいでおかしなことに巻き込まれても面倒だとか思わないの?
面倒は面倒だよ。この前オリオに追いかけられた時は、足の筋肉痛をだいぶ引きずったし。
ご、ごめん……その日のうちに、足をほぐしてあげればよかったね……
でも、面白いよ。こんなに充実した毎日が待ってなかったら、わざわざ自分から一緒にあちこち行ってバカバカしいことをしたりしない。
だから、そんな辛そうな顔しないで。余計なことをごちゃごちゃ考えるなんて、全然奈々ちゃんらしくないよ。
うん……へへ、この感じだと、ウチもまったく望みがないわけじゃないんだね……
望み?
な、なんでもない、ウチが言いたいのは……つまり……また今度、よしことダブルデートする時もキミに手伝ってもらえそうだなってこと!
またか……はぁ、いいけどね。
この手のかかる先輩は、私の一番大切な先輩なんだから仕方ない。言ったことは守らないといけないしね。